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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

第46話 破滅の幕が開く(SIDEエミリオ)

 *****SIDE エミリオ



「ごめん、すぐに呼ぶつもりだったよ」

「……リオ兄様とフランカは恋人だから、仕方ないですわね」

 エステファニアは、婚約者ではなく恋人と表現する。それは愛し合った者を呼ぶ単語で、フランカから聞いたらしい。王太子は勝手に決められた『婚約者』に過ぎないが、兄と親友は『愛し合う恋人同士』と区別した。

 フランカの記憶通りなら、その後竜帝が目覚める。きっと彼が聡明な男なら、ティファを選ぶだろう。そのために足掻いた。

「君のドレスの相談だったんだよ」

「リオ兄様がプレゼントしてくれる予定の?」

「そう。デザインはフランカの意見を聞きたくて。だから除け者になんてしてないよ」

 誤魔化されてくれる妹が、用意されたクッションに寄り掛かる。ガゼボの格子模様が彼女の白い肌に影を落とした。

「そうよ、ティファ。あなたは私の大切な親友で妹だもの」

 ティファのカップに赤いジャムを沈めながら、フランカが笑う。礼を言って受け取ったティファが、そっと口をつけた。

「あなたも恋人を作れたらいいのにね」

 この後の展開をある程度知るフランシスカの言葉に、何も知らない妹は諦めたように首を横に振った。

「無理よ。クラウディオ殿下と恋人になる気はないし、伯母様も同じだったもの」

 父上の代では、まだ手札が足りなくて伯母上は王家に嫁いだ。竜の乙女の不幸の連鎖を僕の代で断ち切り、母との約束を果たす。妹ティファを自由にしたい。

 覚悟を改めて固め、ぎゅっと拳を握る。その上にフランシスカの手が乗せられた。嗜みとして絹の手袋をした彼女の気遣いに、少しだけ拳を緩める。1人だけで気を張らなくていいことに、安堵が胸を満たした。

「リオ兄様、フランカ。私……お願いがあるの」

「なんでも言ってごらん」

 エステファニアは、ハーフアップにして右に流した銀髪の毛先を、手袋した右手でくるくると弄る。悪戯がバレたり、隠し事をした時の癖だ。言いづらそうにしながら、それでも彼女は口を開いた。

「伯母様もそうだけど、竜の乙女は子を産んだら、義務を果たしたことになるでしょう? だから私、ちゃんと我慢するわ。でも、その後で実家に帰ってきても、いいかしら」

 言い終えた安堵からか、ティファの眦に涙が滲んだ。驚いて顔を見合わせた僕達に、妹は慌てて言葉を付け足す。

「2人を邪魔するつもりじゃないのよ。どこか片隅の部屋でいいの! 王宮で殿下と一生過ごすなんて嫌なだけで、だからっ」

「慌てないで、ティファ。分かってる。僕から提案するつもりだったんだけど、先に言われてびっくりしただけだよ」

「ええ、先にティファからなんて驚いたわ。実はね、私達も同じ相談をしたの。ティファに幸せになって欲しいから、あなたの部屋を用意しましょうって話したばかり」

 僕とフランシスカの言葉に、ぽろりと涙を零したティファは、自分が泣いた自覚もないようだ。頬を滑る涙をそのままに、嬉しそうに微笑んだ。

 安心したのだ。帰る場所も、待っている人もいることに。愛らしい僕の妹をここまで苦しめる、王家への恨みが募った。代々の竜の乙女達がどれほど傷ついたか。必ず思い知らせてやると固く誓う。

「帰ってきて、いいの?」

「いいに決まってる。ここはティファの家なんだから」

 嫁いだ貴族女性が実家に戻るのは、離縁された場合のみ。夫が死んでも妻は家を守り、跡取りに引き渡すまで婚家を繋ぐのが役割とされてきた。その慣例を無視した提案は、僕にとって希望通りの申し出だった。

 涙をそっと指先で拭うと、目元を赤くしたエステファニアは慌ててハンカチで涙を押さえた。侍女にお茶を運ばせ、優雅なお茶会を行いながらフランカと目配せし合う。

 この幸せな時間がずっと続くよう、あの愚かな王太子に早く破滅してもらわねば……。この愛らしい妹を傷つけたら、万死に値する罪の代償をあの馬鹿は払いきれないだろう。

 竜の乙女の伝説の真実は、フランカを通して知っている。余計な心配はなかった。ただ……目覚めた竜帝がエステファニアに相応しい男でなければ、国の守護神だろうと僕は容赦しないけどね。

 メレンデス公爵の実姉である王妃殿下の誕生祝いの宴は、最悪の始まりだった。いや、始まりすらしなかったと表現するべきか。

 婚約者でありながら、我が妹エステファニアを王太子はエスコートしなかった。僕がエスコートするには、一度婚約者のフランシスカと入場した後で、改めて入場し直す必要がある。いくら婚約者と妹であっても、両側に女性を侍らせるような非礼は許されなかった。これは女性に対する最低限の礼儀だ。

 フランシスカをエスコートした後、すぐに戻って妹エステファニアの腕をとる。申し訳なさそうな顔をするエステファニアに、可愛いよと囁いた。今日の彼女は銀髪を真珠の髪飾りで留めている。その身を包むパールピンクのドレスは、白い肌を際立たせた。

 メレンデス公爵家特有の緑に金を混ぜた不思議な色の瞳に合わせ、ミントグリーンのドレスを着る予定の妹だが、やはりピンクを贈って正解だ。肌の色も髪色も映えるね。断罪される悪役令嬢の色なんて、纏わせたくない。

 本来なら夜会のドレスは婚約者が贈るのが習わしだが、王太子クラウディオが用意したことはない。用意されたとしても、エステファニアは何か理由をつけて身につけようとしないだろうが。

 王宮で顔を合わせても、挨拶もない。婚約者以外の女の肩や腰を抱き寄せる節操のない男が贈る服など、淑女の鑑である妹に着せる僕ではなかった。

 エスコートした後、フランカに妹を頼んで離れる。あの馬鹿王子が最近入れ込んでいる女がいるのは、情報に聡い貴族の間では有名だった。

 婚約者がいながら、他の女と同衾する乱れた男に対する反発も、煽れるだけ煽っておいた。今夜、僕がそばにいなければ、あの馬鹿は暴走するだろう。

 可愛いティファに嫌な思いをさせてしまうことが、少し気がかりだ。しかし僕がそばに居て守れば、あの馬鹿は馬脚を現すまで時間がかかる。

 はしたない下着まがいのドレスの注文から、女をベッドに引き摺り込んだ回数まで、僕に入ってきた情報は呆れ返る内容ばかりだった。

 こんなスキャンダル塗れの男が、僕達のエステファニアの婚約者という肩書を名乗るのは、今夜限りにしてもらおうか。

 地獄へ突き落とすプランを知っているのは、僕とフランカだけ。

 あと僅かの我慢だ。そうしたら僕達は可愛い妹をあの馬鹿から取り戻すことが叶う。お膳立ては済んでいる。早く動け。

 僕の願いが届いたのか。国王や王妃が不在の玉座の前で、馬鹿王子が声を張り上げた。はしたなく足や胸元を見せつける娼婦のような女の腰を抱き寄せ、いやらしい笑みを貼り付けた男。傲慢にも竜の乙女を見下ろす、道化師の舞台の幕が上がった。

「エステファニア・サラ・メレンデス――お前との婚約を破棄する」

 破滅の鐘がようやく鳴った―――王家の滅亡を祝すように。

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