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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

第45話 運命を断ち切る力を(SIDEエミリオ)

 *****SIDE エミリオ



 5歳から始まった家庭教師の教育により、文字を読めるようになった僕に与えられた本は、古びた手書きの日記だった。

「聡明なお前なら、早すぎる時期でもあるまい。お前の先祖の記録であり、今後エステファニアが辿る運命だ」

 その日から、僕は夢中になって日記を読んだ。昼間はエステファニアと過ごし、彼女が昼寝をする時間は本に目を通す。貴族としての勉強の合間、余暇と呼べる時間の大半を使って、何人もの人生を本を通して経験した。

「これが、ティファの運命? そんなの嫌だ。お父様が出来ないなら、僕の代で断ち切ってやる」

 負の連鎖を断ち、母との約束を果たす――可愛い妹を守るために、僕は茨の道を自らの意思で選んだ。

 可愛い妹に加え、婚約者が出来た。彼女は僕より2歳年下で、ティファの2歳年上。本当に愛らしい。

 美しい黒髪は我が家にない色で、母の金髪とも違う艶やかで目を奪われた。健康的な肌を縁取る黒髪の少女は、駆け寄ってきたエステファニアにも優しい。

 理想的な婚約者に僕は頬を緩めた。愛らしく素直な妹と外見も心も美しい婚約者――彼女達を不幸な目に合わせたくない。

 幼いながらに決断した時、僕の未来は決まったのだろう。

 貴族派と国王派に分かれていた国内の貴族へ、徐々にメレンデス公爵家の存在を広げていく。有名な家名を利用し、夜会やガーデンパーティーに入り込んでは貴族を取り込んだ。

 この国の貴族派は、近くメレンデス公爵派に改名されるだろう。自然と呼び名が変わるほど、多くの貴族を取り込むことが出来た。メレンデス公爵家は竜の血筋、王族より格上の我が一族は外見が整った者が多い。

 初代の竜の乙女が婚姻を結んだ竜帝から始まり、代々の伴侶は才色兼備な貴族女性が選ばれてきた。年齢が釣り合うこと、実家が大きな力をもつ貴族であること、そして何より美しい外見をもつこと。美形同士が結婚して子を成すことで、次代も美しい外見をもつ。王侯貴族に外見の整った者が多いのは、遺伝による作用だった。

 どの国の貴族も美しい姿を誇る。その花に似た外見に、蜂や蝶が群がるのだ。繰り返される婚姻により、貴族家は一定以上の水準を保っていた。

 メレンデス公爵家は一歩抜きん出る美貌と穏やかな話し言葉、絶やさない笑顔の裏で策略を巡らすことが得意な一族だ。

 愚王を戴いた祖父の代から竜の乙女となる娘を助けたいと、改革を行ってきた。その成果が、ようやく僕の代で結実しそうなのだ。出来たら、エステファニアの婚約を解消したいけど。

 そう願う僕の気持ちを知った婚約者フランシスカが、真剣な顔で「話がある」と詰め寄ったのは僕が15歳になった頃だ。思い詰めた様子で、彼女が話してくれたのは……異世界の知識と生まれ変わりの記憶だった。

 彼女ではない誰かが話したなら、荒唐無稽だと笑い飛ばしたかもしれない。しかしフランカの為人ひととなりを知る僕は、驚きに目を瞠りながらも最後まで聞いた。

「私が話したことを信じてください。17歳になったティファは王太子クラウディオに婚約破棄されるの」

 フランシスカは王太子を「クラウディオ」と敬称なしで呼んだ。不敬罪に問われる呼び方を使ったのは、彼女にとって王太子は尊敬するに値しないと示したのだ。

「僕は君を信じる」

 疑う要素はない。婚約破棄は願ったりだ。こちらから婚約解消する手間が不要になるなら、多少の不名誉は僕が晴らせばいい。

「ねえ、フランカ。僕達は良い協力関係を築けると思う。ティファのため、僕達の幸せな未来のため、王家を潰さないか?」

 頷いて口元を緩めたフランカの、どこか黒い感情を滲ませた微笑が美しくて、彼女の婚約者になれた幸運に感謝した。

 ――数年後、過去にフランカに聞いた話が、予言のように実現されていく。愚かな王太子が、突然現れた小娘に夢中になり……ティファと距離を取り始めた。

 悔しい気持ちはなく、残り時間を数えながら胸を弾ませる。その日のための布石は打った。あとは最後の楔を打ち込む、クラウディオの一手だけ。

「あと少しですわね」

「もうすぐ婚約破棄が行われ、ティファは自由になる」

 薔薇の庭で顔を近づけて話し込む。はたからは仲のいい婚約者同士だと微笑ましく見守られているが、話の内容は人に聞かせられなかった。

 フランカがもつ異世界の記憶は、父にも話していない。秘密を持つ者は、最低限でいい。僕とフランカだけ。父ベクトルと奮闘していた時期とは違う、共通の目線で隣に立つ婚約者の存在が心強かった。

 ティファは、王太子に惚れていない。義務と諦めで嫁ぐだけだ。ならば、婚約を解消したら妹を僕達で守ればいい。

 あの馬鹿王子の暴走を招くため、僕は妹から離れなければならない。勉学も剣術も、すべてにおいて僕に勝てない王太子は、妹だけの時を狙うだろう。奴がティファのエスコートをしない、王妃の誕生祝いの夜会が、婚約破棄騒動の合図だった。

 せめてもの詫びにと、妹にドレスを贈った。淡いピンクのドレスは銀髪に映える。フランカは前世の記憶で、スチルと呼ばれる風景を覚えていた。ミントグリーンのドレスを着たティファが断罪されるシーンだったと聞き、違う色のドレスを用意した。

 これが僕達の抵抗だ。思い通りになんてさせない。

「ティファが傷つかないか、心配だわ」

「大丈夫だよ、彼女は強いし……当日は君が隣にいてくれるんだろう?」

「ええ。もちろんよ」

 フランシスカの手を握り、ガゼボのソファに並んで腰掛けた僕の耳に、駆け寄る足音が届いた。専属侍女を従えたティファだ。話は聞こえないが合図は見える位置で、侍女は足を止めた。

「リオ兄様、フランカも! 私も呼んでくれたらいいのに」

 唇を尖らせて砕けた口調で文句を言う妹が、淡いオレンジのワンピースの裾を摘んで、向かいのソファに腰掛けた。自分に内緒で2人がお茶をしていたと拗ねている。可愛い妹の様子に顔を見合わせ、フランカと微笑んだ。

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