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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

第44話 安心してお母様(SIDEエミリオ)

 *****SIDE エミリオ



 メレンデス公爵家の当主となる男児は、竜の乙女や竜帝に関する書物の閲覧許可がある。大量に所蔵された書庫のほとんどは、代々の竜の乙女がつづった手記だった。

 まだ僕は読んでいないが、妹であるティファも日記をつけている。いつか僕の子孫が読むだろう。そこには幸せが綴られていて欲しかった。

 メレンデス公爵令嬢は竜の乙女として手記を残し、竜を目覚めさせる血脈を繋げる。本来は相応しい王を選び国を平和に保つ役目もあるが、権利をはく奪された乙女達は望まぬ形で血を残し続けた。

 メレンデス公爵を継ぐ者は血を濁らせぬため、外から妻を得て家を維持する。いつからか竜の乙女の不遇を嘆き、なんとか王家を倒すべく力を蓄えてきた。国王派から有力貴族を引き抜き、セブリオン家の勢力を削いでいく。

 先祖に竜の血を持つメレンデス家であっても、その身は只人に過ぎない。特別な能力も魔力も持たぬ人が取れる手段は少なく、実際に行使できる手段は限られた。それでも家族を守るために尽くした当主の苦労が、ようやく実ろうとしている。



 物心ついた頃から、母に言い聞かされた約束がある。病弱だった母は、儚い雰囲気の美しい人だった。声を荒らげて怒った姿を見た記憶がない。毎日お見舞いに行く僕をベッドの端に座らせて、銀髪を撫でてくれた。すっきりしているのに甘い香りの手は、白くてすこし冷たい。

 淡いブラウンの髪色の母は、父親そっくりの僕の銀髪を撫でるのが好きだったと思う。そんな母が毎日約束させた言葉。まるで呪文のように心に染みて残った。

「お願いね。妹を守ってあげて。苦しい思いをすることになるわ。エミリオはお兄ちゃんだから、守ってくれるかしら?」

 心配そうに尋ねる母に、僕はいつも大きく頷いた。そして母が望む言葉を繰り返すのだ。まるで呪いのように。

「妹は僕が守るよ、安心して、お母様」

 いい子ねと褒めて撫でてくれる手が温かくて、嬉しくて、僕はまだ存在しない妹を守る約束をした。やがて母のお腹に子供が宿ったと聞いて、まだお腹も大きくなっていないのに、周囲は噂し始めた。

 ――『竜の乙女が生まれる』と。

 まだ幼かった僕はその意味を知らず、母が口にする妹が生まれるのだと無邪気に喜んだ。その妹の運命も、我がメレンデス公爵家が背負うごうも知らぬまま。

 なぜ生まれる前から妹だと断定されるのか、その意味すら知らずに。

 妹が生まれ、元々細かった母はさらに細くなった。僕や妹のエステファニアを生んだことで、身を削ったみたいに痩せて、妹が2歳の誕生日を迎える前に亡くなった。

 ティファは母の温もりを覚えていない。だから僕や父上がその分も愛した。寂しいと思わせないように、大切に腕の中で守り続ける――僕の最初のお姫様。

「ティファ、気をつけて」

「はい、リオにいちゃま」

 まだ幼い妹は、母親の記憶などほとんど残っていないだろう。多少覚えていても、ベッドの上の青白い顔をした女性の姿だ。

 可哀想だけど、僕だって大した思い出があるわけじゃない。ただ夢にまで思い出すのは、母が鈴のような高い声で繰り返した約束だ。

「ほら、掴まって」

 幼い頃から、可愛げのない大人びた子供だと言われてきた僕と違い、エステファニアはどこまでも愛らしかった。大人にも笑顔を振りまき、天真爛漫で天使のようだ。この国で竜の乙女は特別な存在だが、そんな肩書がなくても十分特別な女の子だった。

 失った母の代わりに、僕が守るべき存在。僕に守られるため、生まれた妹なのだ。

 どこに行くにも後ろをついてきて「にいちゃま」と呼ぶ舌っ足らずな声がきこえる。嬉しくて、可愛くて、嫁にやりたくないとぼやくお父様の気持ちが理解できた。

 いや、この頃の僕は理解した気でいただけ。可愛いティファが背負わされた運命の過酷さや、王太子の婚約者である意味を知らなかった。

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