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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

第42話 誇り高く生きるために(SIDEアグニ)

 *****SIDE アグニ



 前世界で死に、新しい人生を始めるのだと思った。ところが生まれ変わった世界で、俺は竜だった。予想外にも程がある。人間から転生した俺が、人外になるなんて――。

 目覚めた記憶は、薄暗い場所から始まる。時々、明るくなったり暗くなったりした。後日、それは温める母竜の影だったと知るが、この時点では意味不明の明滅だ。暗くなると暖かくなる程度の感覚しかない。自力で殻を割って外に出た俺は、呆然とした。

 短い手足、膨らんだ腹、鱗だらけの皮膚。全体像を見ることができなかったが、ある程度想像できたのは前世の知識ゆえだろう。爬虫類なのか? 文句を言おうと開いた口から、喉を鳴らす低い音が漏れた。

 ぐるる……すぐに母らしき大きな白いトカゲが飛んできた。どう見てもトカゲが近い。カッコよく言えば、洋風ドラゴンか。そもそもトカゲが空を飛ぶ時点で、異世界だと気付いた。

 他の生き物と遭遇するまで己の大きさを知らず、一緒に生まれた兄弟と育った。食事が生肉だったのは衝撃だが、空腹に耐えかねて食べると美味しい。

 ぐるると唸るだけの俺や兄弟と違い、母竜は言葉を巧みに操った。隠し事はすぐバレるし、兄弟の考えも双子みたいに伝わる。異世界ゆえだと深く考えなかったため、餌に選り好みする変わり者の子供として育った。

 同時期に卵から孵った兄弟が兄だと主張したため、素直に長男の地位を譲った。特に不都合はないし、前世では妹がいる長男だったため、下の子の立場に憧れがある。甘え上手で、何かあれば兄や姉に守ってもらえる存在も楽しそうだ。

「……お前は変わった考えを持っているのね」

 ある日しみじみと母竜に言われて気付いた。他者の気持ちが伝わるのだ。これは異世界転生のチートか。そう喜んだのも束の間、母の知識から竜は全員意識を共有できると知った。自分だけのチートではない。衝撃はそのまま兄や母に伝わり、慰められた。

「この肉譲ってやるから元気出せ」

「木の実がいい? 取ってこようか」

 兄と母の優しさのおかげで落ち込んだ時期は短い。しかしこの頃から、あれこれと思い出すことが増える。同時に竜の一族に騒動が巻き起こり、俺は自分のことを後回しにせざるを得なかった。

 竜帝陛下が人間に関わったため、寿命を著しく減らしてしまったと聞く。美しい銀の竜である竜帝陛下は、しばらくして竜の乙女と共に命を散らした。番としての契約に失敗したらしい。

 本来ならば竜の乙女の寿命を、竜の水準まで引き上げるはずだった。途中で『奇妙な現象』が邪魔をしたという。その話や竜の乙女に関する噂を聞くうちに、記憶が刺激されて完全に思い出した。

 前世で妹が夢中になった18禁の恋愛ゲームと、この世界で耳にした名称が同じなのだ。妹はまだ17歳だったが、成人済みの俺と一緒に買い物に行った際に強請られて購入したため、年齢制限をすり抜けてしまった。

 夢中になって遊んだ妹から、こぼれ話を聞いた程度の知識しかない。しかしネットで読んだ小説を思い出すと、ゲーム転生系には『強制力』やら『補正』が働いて、物語を無理やりなぞらせる奇妙な現象が起こるはずだ。

 溢れ出た記憶は抑える間もなく、母や兄に共有される。竜の意識共有は、血縁者や互いに認め合う仲間同士での共鳴反応のひとつだ。母マリエッラの動揺は彼女の友人や顔も知らない父を通じて、竜帝陛下の弟君に届いた。彼は「兄は『ゲーム補正』で殺された」と怒りを露わにする。

 次の竜帝として立つ金竜テュフォンに呼び出され、彼の望むまま忠誠を誓い、前世の知識をすべて共有した。竜の乙女、攻略対象、竜帝テュフォン陛下、異世界から来る主人公、悪役令嬢エステファニア、断罪、陵辱バッドエンド、逆ハーエンドの隠しキャラ――様々な知識が共有され、若き竜帝は決断する。

「我ら竜は、誰かの手のひらで踊る気はない」

 未来を変えるための戦いが始まった。

 仕掛けを施し、前竜帝陛下と竜の乙女が亡くなった日から、わずか28年後に眠りにつく。参加したのは新たに竜帝となったテュフォンと俺を含めても13匹。当初の予定より、多くの同族を巻き込んでしまった。

 神でもないのに、生まれてくる子供の未来に細工を施した。人の子の運命を魔力で歪め、新たな世界のための犠牲とする。これから生まれる子供を人柱とし、対価を我ら竜の魔力で支払った。他に方法がなかったとはいえ、あれは呪いに近いだろう。

 数代後から影響が現れ、竜の望む世界を固定する力が働く。このようなごうに染まったからには、きっと碌な死に方はしない。それでも後悔はなかった。

 人を不幸にする未来を放置できない、なんて綺麗事は吐かない。ただ、銀の竜帝と竜の乙女を襲った『奇妙な事象』が、強制力の一端だと気付いた以上、今後も同じ不幸が起きるのを許せなかった。

 俺は確かにゲームの世界に転生したかも知れないが、使い捨ての駒にされるつもりはない。不要な干渉を排除できるなら、持てる力の全てを使って足掻くだけだ。

 目覚めたら俺の望んだ、ゲームの補正や強制力に左右されない美しい世界が見れるだろう。それを見たら、もう死んでもいいと思い目を閉じた。

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