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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

第37話 お誘いしてもいいの?

 公爵家の自室で、私はまだ寝足りないとゴネる目蓋を必死で押し上げました。

「おはよう、ティファ」

 親友はすでに目が覚めていたみたいです。

「ん……もう朝なの? フランカ、おはよ……はふっ」

 挨拶の語尾が欠伸にまぎれました。嫌だわ、恥ずかしい。頬を染めて謝罪すると、くすくす笑いながら頬を突かれます。でも失礼は許してくれたみたい。

 子供の頃の思い出を含め、いろいろと語り合いました。フランカがリオ兄様に一目惚れしたくだりは、少し恥ずかしかったけど、聞けて良かったわ。

 あの頃のことはぼんやりと覚えています。フランカがお姉さんになってくれると聞いて嬉しくて、はしゃいで翌日知恵熱を出したことは内緒ですけれど。リオ兄様にも口止めしています。この様子ならフランカは知らないみたいですね。

「夜更かしし過ぎちゃったわね」

 おしゃべりが楽し過ぎて、気づけば夜空がほんのり白むまで話していました。寝る前に侍女が用意してくれた蜂蜜ジンジャー茶はとっくに冷たくなって、渋くて辛いお茶を飲んで噎せたのもいい思い出です。竜帝テユ様に嫁ぐなら、きっと私はこの家を出ることになるでしょう。

 前に約束したみたいに戻ることは出来ないから。もちろん幸せになれるのが一番ですけれど……。もっと長く一緒に暮らせると思っていたのよ。大好きなリオ兄様とフランカ、離れることになるのは嫌だと思うほど泣きそうになります。

「なぁに? まだ悩んでるの」

 跳ねた黒髪を手櫛で押さえるフランカが、呆れたと苦笑しました。

 そうよね、あの王太子から解放されて私を好きで愛していると言ってくれる方に嫁ぐ。それはきっと幸せなことだわ。私だってテユ様を好きだと思うけれど、出会ってまだ一夜だから。本当に好きなのか分からない。

 もしかしたら嫌いな婚約者から解放された高揚感で、恋愛だと思い込んだんじゃないかしら。不安は尽きないの。こんな愚痴、喜ぶお父様やリオ兄様には言えないから、フランカがいてくれて良かったわ。

「だって、まだ一晩だけだもの」

「これから知っていけばいいわ。私がリオを好きになったのは、引き合わされたその日だったのよ。同じことが起きても不思議じゃないし、自分の直感を信じてあげてもいいと思わない? 運命の恋でしょう」

 昨夜から、フランカはテユ様との出会いを『運命の恋』と表現します。私にはよくわからないけれど、リオ兄様とフランカの恋は、確かに運命でしょう。

 親が決めた貴族家の利益を図る婚約者ではなく、互いに互いを尊敬し愛しているって伝わってきました。ですから運命の恋を否定はしません。でも私は竜の乙女で、婚約が解消されたから目覚めた竜帝の妻となる――長い間伝えられた御伽噺の通りですが、それは決まり事でした。

「私の感情を置き去りにしているの」

 まだ気持ちが追い付かない複雑な心境を口にします。こんな泣き言、他の方には言えないわね。

 褐色の肌は力強さを感じます。がっちりした腕や抱き上げてもふらつかない鍛えた身体は、とても頼りがいがありました。銀が混じった金の髪も光に映えて綺麗、きっと夜空より太陽の下の方が似合う方でしょう。性格もはっきりして、決断力もあるから国を纏めるのに向いていると思います。

 私に対して「愛している」と言ってくれたのは家族以外は彼くらいで、何より触れる手は少し過剰でも優しかったわ。嫌いではないの。どちらかと言えば好ましい人です。

 そこまで語ったところで、フランカの満面の笑みに言葉を止めました。自分が口にした内容を反芻してみます。途端に顔が赤くなるのが分かりました。

 何か恥ずかしいことを口走ったんじゃないかしら?!

「好きなのに、自覚はないのね。まだ一晩、それも宴の席でご一緒しただけだから……そうね。知り合うために時間を作ってみたらどうかしら」

「知り合う、時間?」

「そうよ。ちょっとピクニックなんてどう?」

「ピクニック……」

 フランカの言葉を繰り返すだけの人形になった私は、ぼんやりしていました。ピクニックといえば、明るい草原のある丘を歩いたり、湖の近くで休憩したり、木漏れ日が落ちる大木の下で眠ったりする……あれですよね?

 一緒に過ごす姿を想像すると、似合わないような気がしました。お誘いしてもいいの? 普通の恋人同士のようではなくて? 政略結婚なのにおかしくないかしら。

「準備を頼まなくちゃいけないわ。それと竜帝陛下に予定のお伺いを立てて……それから同行者は誰がいいかしら」

 そわそわと楽しそうに計画を立てる親友の夜着の袖をがっちり捕まえ、私は慌てて声を上げた。

「リオ兄様とフランカも来てくれるのよね?」

 その言葉に滲んだ「まさか二人にする気じゃないわよね?」の問いに、察しのいい彼女は眉尻を下げて頷きました。昔から柔らかな猫っ毛で、絡まることを知らない銀髪をさらりと撫でてくれます。私より少し体温が低いフランカの指は気持ちよくて好きです。

「もちろん、ご一緒させてもらうわ」

 その一言にほっとして、ベッドの端に座ります。いま、すごく取り乱した気がしたけど……ちらりと窺った先で、フランカは気にした様子が窺えません。ほっとしました。

 ノックの音が聞こえ、侍女たちが挨拶して入室します。身支度を整える間に、軽くひと悶着ありました。以前はぴったりだった私のドレスを貸したら、フランカの胸が溢れそうです。なんて羨まし……いえ、大変な事態です! これではリオ兄様もテユ様も悩殺されてしまいますわ。危ない!!

 誰に対して焦っているのか自分でも分からぬまま、私は大急ぎでロエラ侯爵家に着替えを持ってきてくれるよう遣いを出しました。

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