話題のラノベや投稿小説を無料で読むならノベルバ

【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

第20話 濁り汚れた王家だよ(SIDEエミリオ)

 *****SIDE エミリオ



 そう、教えたはずだ。この国の貴族や前国王も繰り返し口にした。

 『竜の乙女を大切にせよ。彼女は国の要である』とね。それを聞かずに、こんな低レベルの女をどこかから拾って来て、僕の妹を人前で辱めた罪は、一生かけて償ってもらうよ。簡単にその命を絶つような親切な方法じゃなく、そうだね。生きることを嫌悪するような未来を用意してあげる。

 口元の笑みを深めた。

「知らないなんて、おかしいじゃないか。君たちセブリオン家の者は、代々我がメレンデス公爵家の令嬢を無理やり妻にした」

 伯母は義務だと割り切ったようだけど、昔は抵抗した御令嬢の記録も残っている。王家が都合よく改竄した記録ではなく、メレンデス公爵家の側から見た真実は、大量の手記となって我が屋敷の地下に眠っていた。わずか5歳で目を通したあの夜、恐ろしさと口惜しさに眠れず朝まで泣いた。

 メレンデス公爵家の娘に課せられた役目は、王家を存続させることではない。竜帝であるテュフォンの眠りを護ることだった。力を使い果たした竜たちが、自ら目覚めるまで起こしてはならない。そのため、自らの一族の存在をかけて封印してきた。

 竜の乙女が選ぶ伴侶は王となり、国を平穏に保つ役割を与えられた駒だ。彼女が産む王女たちは他国との軋轢を解消し、貴族を繋ぎ留める鎖だった。平和を保ち、竜を休ませるためにメレンデスの竜の乙女は王に相応しい夫を選ぶ。本来はそれが正しい伝説だった。

 ねじ曲げたのは3代目の王、彼は己の子孫に偉大なる王家という考え方を植え付けた。王であるために、竜の乙女を娶るよう義務付けたのだ。本来、夫となる王を選ぶ権利を持つ竜の乙女から、選択の自由を奪った。

 王族の立場を利用し、臣下となるメレンデス公爵家を下に置き、娘を身篭ると強引に婚約者として縛り付ける。伝説を逆手にとり、回復した竜が目覚められぬよう、己の血筋の治世が続くよう呪いをかけた。

 竜の乙女が生まれた瞬間から、王家の子を婚約者と定められるため、竜帝は目覚めることなく眠り続ける。竜の愛した女性の血筋が利用される事実を知らず、惰眠を貪る結果となった。

 危機が迫り、乙女の祈りが届けば国を助ける。しかし意識の大半は眠ったまま……都合よく利用された。

「違うっ!」

「いいや、違わないよ。だってティファの時は生まれる前、まだお腹にいる頃から婚約者として縛りつけたじゃないか。君は1歳だったね。僕が先に生まれたから、次は絶対に女児である妹だ。君の父君はティファの自由と選択権を奪った」

 言い聞かせながら、エミリオは最愛の妹の冷めた言葉を思い出す。

『王家との結婚が義務なら仕方ないけれど、私は子供を産んだらすぐに実家に戻りたい。フランカやリオ兄様と一緒に暮らしたいもの』

 王子が嫌いなのかと問うた僕に、ティファは「当然よ、出来るなら触れたくもないわ」と言い切った。それは当時からクラウディオが様々な貴族令嬢に言い寄り、婚約者である妹を蔑ろにしてきた結果だった。

 女好きのだらしない男。それでも王子であり、王家からの命令だから仕方なく嫁ぐ。子を産むのは竜の乙女の義務だと嘆いた妹の姿に、僕は決意した。

 彼女が結婚する18歳になる前に、セブリオン王家を失脚させると――そのために裏で画策し、メレンデス公爵派の貴族に根回ししてきた。まさか自滅してくれるとは思わなかったけど。

 先々代の国王、目の前の愚かな王子の祖父の代から、セブリオ国の王政は綻び始めていた。賢い貴族は気づく者も現れ、徐々にメレンデス公爵派に流れる。

 血が淀んでいた。この頭の中が空っぽな王子を見ればわかる。学ぶべき義務を果たさず、王族としての責務を放棄して、淫らに享楽を甘受する。色欲に溺れ、権力を盾に他人の妻や婚約者にちょっかいを出す王子に、誰が頭を垂れるというのか。

 本能だけで生きる獣ではないか。

 さすがに貴族の御令嬢への手出しは最小限に控えていたが、市井の女性を集めて次々と寝室へ引き込んだのは噂になった。揉み消した国王の心労は如何許りか。まあ、彼も愛人を隠していたのだから、大した違いはないが。

 伯母上も愛人の存在は気づいていたらしい。あっさりと国王を見限った一因に、愛情の不足だけでなく愛人の存在があるのは間違いなかった。

 誇り高い伯母上のこと、騒いでも無駄だと理解していたはず。もっとも効果的な場で切り札として使うため、温存していた。僕はその札を切りやすいよう手配しただけだ。

 すべては王家の愚行による、膿であり錆だった。

「竜の乙女は妹のティファで21代目だ。3代目から18代に続き、同じ血族とだけ結婚したら……どうなるかわかる? 君の血は濁り、汚れている」

 吐き捨てる言葉に滲んだ嫌悪は、過去の乙女たちの手記を読んだからだ。

 18人もいれば、他の男に惚れて婚約解消を望んだ姫もいた。王子に襲われ純潔を散らされ、無理やり妻にされた女性の涙で滲んだ文字を覚えている。

 妹が同じ立場になったらと想像するだけでぞっとした。

 本来の伝説通りなら、竜帝が目覚めるまでの間に王位は血筋に関係なく継承されるはずだった。竜の乙女が選んだ男が王となり、国を守り平和を維持する。竜の望んだ仕組みが機能すれば、この国は豊かな平和を享受する楽園だったのだ。

 捻じ曲げた歴史は、血の淀みという形でセブリオン家に報復した。竜の乙女としか婚姻しない王家に、近親婚による弊害が出たのだ。エミリオが何もしなくとも、次の代に崩壊しただろう。だがそれでは遅い。妹ティファが犠牲になってしまう。だから貴族たちへの根回しを急いだ。結果が出る前に竜が目覚めたため、もう被った猫も必要ない。

「なっ! あの女のせいか」

「馬鹿なのかな? いや、馬鹿なんだね」

 王子のいう「あの女」が伯母上を指すのか、妹ティファを示すのか。どちらにしても愚かな発言だ。今僕が説明した内容すら理解できないのだから、もう何も告げようと思わなかった。このまま地下牢で朽ち果てるだけの『幸せな最期』にはしないから、そこは安心して欲しい。

「反省する頭があるなら、少し考えるといいよ」

 カビ臭い地下牢の床は、じめじめと湿っていた。踵を返した僕の靴音が遠ざかるのを、王子はどんな気分で聞くだろう。

 メレンデス公爵家は臣下で、自分は最大派閥の娘を引き取って王妃にしてやる親切な王子だ。次期国王なのだ! なぜこんな場所に閉じ込められている? そう喚き散す声を背中で笑う。

 牢番はもちろん誰も反応しない。王になったら、全員縛り首にしてやるぞ! 叫んだ言霊が現実になることはないと理解できない。愚か者の叫びを心地よく感じながら、階段を上った。

「【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く