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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

第18話 きっぱりお断りしますわ

 大広間側の扉が開き、父と兄が並んで現れました。

「騒がせてすみません、陛下」

「痴女がご迷惑をかけたようで申し訳ありません」

 2人の謝罪を受け、テュフォン様は鷹揚に頷きます。その姿は王者の風格があり、人を自然と従える威厳に満ちていました。とてもお似合いです。

「お父様、リオ兄様。きちんと説明してくださいませ」

 助けが来たとほっとする私を、ソファに腰掛けたテュフォン様が腰に腕を回して引き寄せます。後ろに転ぶ形で彼の膝の上に、ちょこんと座ってしまいまいた。これは不可抗力ですわ!

「え、ちょっ……テュフォン様!?」

「よい、ここにおれ」

 いえいえ、私は婚約者ではありませんのよ? 何より、婚約者でも人前でこんなことしませんわ。手足を動かして逃げようとするも、ぐいっと引き寄せられて背中にテュフォン様の逞しい胸が当たりました。恥ずかしいのですが。

「おお。我が娘ながらお似合いだ」

 父ベクトルの発言に、唖然としてしまいます。娘が目の前で襲われているのに、お似合いですって?! 興奮しすぎて顔が真っ赤になり、息が喉に詰まって苦しいです。視界が歪むほどの羞恥と怒りでぶるぶると全身が震えました。

「何をっ!!」

「落ち着け、我が花嫁よ。他の者はティファと呼んでおったな。我はステファニーとしよう」

 首筋に息がかかり、恥ずかしさで泣きそうな顔になりました。そんな頬や額にキスを降らせるテュフォン様は、大広間での紳士的な態度が嘘のように親密に振る舞います。

 独占欲丸出しで、勝手に愛称を増やさないでくださいませ! それにほとんど省略できていませんわ。

「ティファ、この方は竜帝陛下であらせられ、君の本当の婚約者だよ」

 リオ兄様まで……この状況を咎めずに何を言って。

 竜帝、陛下? ――それって、御伽噺の竜じゃないかしら?!

 驚きすぎて固まったのは私だけでなく、向かいのソファに崩れ落ちたフランカも同様でした。慌てて駆け寄ったリオ兄様が彼女を支えます。

「私ったら、ワインにでも酔ったのかしら」

 飲んだ覚えはないけれど、ぎこちなくそう呟いて現実逃避を始めました。歩み寄ったお父様に、着座の許可を出したテュフォン様が私の銀髪を撫でています。

 父や兄以外の男性が髪に触れたのは、初めてかも知れませんわ。婚約者だった王子にも触れさせなかったのですが……。

「酒を飲んだのか?」

「……いいえ」

 優しく現実へ引き戻され、私は嘘がつけずに首を横に振りました。口をつけたワインは甘くて飲まなかったのです。

 いっそワインを煽っていればよかったわ。そうしたら酔ったことにして眠り、朝になれば婚約解消されて自由になった私がいると思うの。

 そんな風に考えるくらい、許していただきたいです。

「本当の、婚約者って、どういう意味ですの?」

 後ろで髪にキスをしたり、髪飾りを解こうとするテュフォン様に呆れながら尋ねました。

 何でしょう、この方。広間では紳士的でしたのに、人目が減ると恥ずかしい行為ばかりなさるわ。

 出来るだけ身を離そうとしますが、少し距離が出来ると引き寄せられてしまいます。結局膝の上で背中に彼の体温を感じながら、肩に顎を乗せられる姿勢に落ち着きました。姿勢は落ち着いたようですが、心臓が飛び出そうなほど大きな音を立てています。真っ赤になった首筋や頬が熱く、気が遠くなりそうでしたけれど。

「伝説の通りだ。ステファニーは婚約者のいない竜の乙女であろう? ならば、我の婚約者であり花嫁となる」

「……お断りしますわ」

「なぜだ?」

 即答で断ったことに、テュフォン様は不思議そうな顔をなさいます。初対面の方の求婚を断るのに理由が必要かしら?

 振り返って文句のひとつも! と思いまして、好みの顔を間近で見た私は言葉を失いました。どうしましょう、声が出せません。

 凛々しい顔立ち、柔らかな笑みをたたえた口元、とろりと溶けた甘い蜂蜜色の瞳は優しさを滲ませて、胸が苦しくなってしまう。

 女性の私が言うのも変ですけれど、褐色の肌って色っぽいんですのね。銀に金を少し溶かして混ぜた髪色がさらに銀に輝いて、肌に月光が降っているみたいです。どきどきして目が離せないのに、見つめると息苦しい。不思議な感じですが、不快ではありません。

「竜帝陛下。お言葉をもう少し選んでいただきたい」

 お父様の溜め息混じりの忠告に、テュフォン様はリオ兄様へ視線を向けられました。

「言葉が悪いか?」

「僭越ながら、先ほどの言い方では『竜の乙女』だから選んだように聞こえます」

 そうですわ。これほど失礼なことはありませんでしょう。婚約破棄されて嫁入り先が無くなったとしても、リオ兄様や親友と暮らすので困りません。竜の乙女の肩書だけで結婚など、御免ですわ。

 私は私を見てくださる方を選びたいのです。

 大きく頷いた私に、テュフォン様は整った眉尻を少し下げて困ったような顔をなさいました。選んだ言葉が失敗の原因と理解されたようです。ここで反省する態度は元王子と違って、好感が持てました。

「悪かった。そなたが我を呼び起こしたゆえ、嬉しさの余り失礼な物言いをした。別の者が竜の乙女であったとしても、我はステファニーが欲しい」

 真っ直ぐな告白に、全身の血が噴き出したかと思うほど熱くなりました。かっと一瞬で血が昇り、くらりと目眩がします。そのまま音が遠のき、呼びかける兄様やフランカの声が聞こえなくなって……意識は闇に飲まれてしまいました。

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