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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

第12話 どちらの貴人でしょうか

「えぇ? なにぃ! これ、なんなのよぉ」

 半泣きでガラス瓶を足元に投げ捨てる彼女に、誰もが「自業自得」「因果応報」と同情しません。まあ当然ですわね。紳士淑女が集まる王妃殿下の誕生祭を台無しにし、王子を竜の乙女から寝取った下品な女へ、好印象を持つ貴族はいません。

 王子の愛称を呼ぶ不適切な関係は、私にとっては好ましいのですけれど。だって言い訳や理由を考えなくても、婚約関係を解消できるのですから。カルメンに粉をかけられ迷惑したリオ兄様はもちろん、ロベルト様やカリスト様も同様のご意見だと思います。

 男性はせめてもの「紳士としての礼儀」を貫いて目をそらし、女性は扇で顔を隠しながら「見苦しい」と眉をひそめました。

 赤ワインでべったり濡れた彼女のドレスは身体に張りつき、貧相な胸元やくびれのない腰を露わにしています。

 スリット部分のフリルが張りついたことで、太腿が見えました。はしたなく見苦しいと表現するより先に、裸で人前へ飛び出した痴女にしか見えません。

 ゆっくりと視線を上げると、庇う形で立つ長身の男性は黒い礼装ローブに覆われていました。瓶から庇ってもらったとき、リオ兄様の背中かと思ったのですが。

 婚約者だったクラウディオ王子は向こうで目を見開いて硬直していますし、お父様は広間にいらっしゃらない。消去法で、妹と婚約者を守ろうとする兄しか思い浮かびませんでした。ですが、明らかに兄より背の高い男性です。

「あの……」

 庇ってくれた背中に声をかけました。いきなり触れるのは失礼ですので、そっとハンカチを差し出します。ドレス用にレースで縁どられた華やかなハンカチですが、彼の肩に飛んだワインを拭いてもらう程度の実用性はあります。

「助かりましたわ、ありがとうございます」

「よい、ケガはないか?」

 上位者特有の傲慢な言葉遣いなのに、不思議と嫌味に感じません。それどころか耳に届いた声はいつまでも聞いていたい心地よい響きでした。助けていただいたことも手伝い、好感度が高まっていきます。

「はい。お気遣い重ねて感謝申し上げます。肩にワインが飛んでおりますので、こちらをお使いくださいませ」

 そこでようやく男性が振り返りました。鮮やかな金髪の青年は、まだ若く見えます。リオ兄様くらいの年齢かしら。

 異国の衣装でしょうか、見たことがない服でした。大量の金銀糸の刺繍が施された衣装は見事で、招待された他国の王侯貴族かしら。私は頬が熱くなるのを感じて、恥ずかしさに一歩下がりました。

 褐色の肌にかかる金髪は眩しいほど光を弾き、瞳も同じ金色でした。黄金の彫像のようです。髪色が少し銀に近いのに対し、瞳の色は赤みがかった深い色で、とろりとした蜂蜜を思わせます。甘い吐息が漏れるほど整った顔の青年は、軽く頷いてハンカチを受け取ってくれました。

 イニシャルを私が刺繍した物ですが、さり気なく刺繍部分を掴まないように気遣うあたり、本当に紳士です。

 触れそうで触れなかった指先を、惜しいと思いながら目で追ってしまいました。はしたない行為に慌てて俯きます。触れて欲しいなんて、思っておりませんわよ。

 手にしたハンカチで肩のワインを拭いた青年を見ている私に……親友が安堵した声色で話しかけました。

「ああ、私の大切なティファが無事でよかったわ」

 フランカの声に我に返ります。呆けている場合ではありませんでした。被害を被った方がいないといいのですけれど。見回した御令嬢や御夫人は驚いておられますが、ご無事のよう。安心しました。

「本当に無事で良かったわね。でもあの方、どなたかしら」

 招待客なら伯母様が知っているはずです。しかし当の伯母様が首をかしげる状況に、カルメンの行いへ目が逸れていた貴族たちもざわめき始めました。

 王族主催の夜会に、招待状なしで入れるはずがないのです。主役の伯母様が呼んだ方ではないとしたら、どちらのご関係かしら。

「見たことのないお方だ」

「一度お見掛けしたら忘れられないわね」

「どちらの王族でしょうか」

 貴族ではなく王族と判断されたのは、整った外見や見事な刺繍の衣装でしょう。ハンカチで肩を拭く仕草も洗練されており、女性たちからうっとりと甘い吐息が漏れました。よかったですわ、見惚れたのが私だけではなくて。

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