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【完結】✴︎私と結婚しない王太子(あなた)に存在価値はありませんのよ?

necoaya

第9話 悪役令嬢……初めて聞きましたわ

 ざわめきは大きく、誰が何を話しているか分からないほど広がっていきました。そんな広間に甲高い声が響きます。

「あの女のせいよぉ! 何なのお!!」

 下品な話し方のせいで、誰の発言かすぐにわかるのは助かりますわ。フランカが口元を扇で隠し、舌打ちしました。同意したいところですが、人に知られると兄や彼女の評判に関わります。

「はしたなくてよ」

「いいのよ、あなたにしか聞こえていないわ」

 侯爵令嬢らしからぬ振る舞いですが、確かに私しか気づかないなら問題ないですね。くすっと笑って流し、正面で喚き散らすカルメン嬢に視線を戻しました。

 先ほど王子の頬を叩くために畳んだ扇を広げ、顔を半分ほど隠します。淑女の嗜みとやらは、確かに便利でしたわ。

 今まで邪魔な小道具と思っておりましたけれど、こんなに使えるなんて! 認識を改めなくてはいけませんわ。今後の夜会の必須アイテムに……あらやだ、もう出席の必要はありませんのね。

 王子の婚約者という肩書がなければ、無駄な夜会やパーティーの招待を断る事ができます。中身のないお世辞を交わし、表面を取り繕う必要はなくなりました。

 明日は何をしようかしら。

 私が好ましく思う方々とお茶会をして、のんびり過ごせたら最高だわ。木漏れ日の下でお昼寝もしてみたいし、朝の二度寝という体験もしてみたい。もっと早く解消して貰えばよかったくらい。

 自由という憧れが、ようやく手の届く位置に降りてきましたわ。

「『悪役令嬢』のくせに、『ヒロイン』のあたしに逆らうつもりぃ?」

 感動に浸る私の気持ちを抉らないでくださる? 甲高い声が耳障りです。

「悪役令嬢? 何をおっしゃっているのかしら」

 相手が下品だからと言って、同じレベルの受け答えをしたら、こちらの品位を疑われてしまいます。竜の乙女であり公爵令嬢としての品格は、私の誇りですもの。毅然と顔を上げて応じることにいたしましょう。

「悪役令嬢じゃないのっ! 私はこの『シナリオ』のヒロインなんだからぁ。ちゃんとで読んだのぉ。あんたがクロード様を苦しめて、縛り付けてぇ、脅してたんでしょお? だからあたしが救ってあげるの」

 頭がおかしいのでしょうか。何を言っているのか、意味がわかりません。悪役令嬢という単語も初めて耳にしました。

 前の世界が前世のことだとしたら、神や竜の領域の御伽噺。彼女の言った内容は半分以上が意味不明でした。

 そもそも縛り付けられたのは王子ではなく、私の方ですのよ?

「真剣に取り合うのも馬鹿らしくなるわ」

 フランカが溜め息をついて呆れ顔です。やはり彼女も意味が理解できなかったみたいですね。

「こんな場面で取り乱すなんて、最低の子ね」

 辛辣な親友に小さく頷くことで同意します。

 本音を上手に隠す扇の優秀さに、口元が緩んでしまいました。こうして顔を半分隠すだけで、淑女らしからぬ仕草や表情を気づかせないなんて。本当に優秀な小道具です。

 互いに扇の下で口角を持ち上げるけれど、目元を緩めなければ平気ね。目配せで会話する私たちの周囲は、有力貴族のご令嬢や夫人が集まっていました。私の味方と示すことで、ご実家が有利になりますものね。

 打算と仮面は貴族の嗜み――互いに上手に利用するのがお約束です。

 すっと足を進めた伯母様が遮るように立ちはだかりました。

「お黙りなさい。お前は誰に向かってその不遜な言葉を吐くの?」

 不敬罪どころではありません。竜の乙女は、この国の守護神である竜によって選ばれたです。宗教としての形はなくても、誰もが竜を崇める国です。代理人たるメレンデス公爵令嬢へ喚き散らす行為は、貴族なら爵位剥奪になる重罪でした。

 王妃の地位を返上なさった伯母様は、先代の乙女でした。すでに子を成した伯母様が、新たな乙女になることはありません。当代の乙女が私なのですから。それでも発言権は王妃であった頃と変わりませんわ。いえ、王家を離れたことで逆に増しています。

 集まった女性たちも、前王妃であったアデライダ伯母様を支持する意向です。皆様寄り添って、カルメン嬢を睨んでおられました。

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