パラレルワールドストーリーズ ~あの日、あの場所にいるのが主人公だけ違う世界で~
魔王復活の儀式
その日魔王が復活したのは、俺の責任でもある。
俺が親友の心の闇に気がつけなかったせいで、事件は起きてしまったのだ。
遡ること数時間前、俺の村では魔王封印儀式の準備をしていた。
「どうかしたか? アナザ」
俺は村のはずれにある蔵のなかで、一緒に整理をしていた幼馴染に声をかけた。
「……いや、なんでもない」
短めの茶髪をしたアナザは、蔵の奥にある武器をじっとみていた。
剣に槍、弓矢もいくつか置いてある。
しかし、村は基本的に平和なのでほとんど使われず埃をかぶっている。
俺たちが住むイノリの村は、争いもなく戦うとすれば狩りぐらいだ。
俺とアナザも16になった今年から、狩猟に参加をしている。
「もうすぐ儀式だ。速くいくぞ」
俺は両手に大き目の壺を抱えており、儀式をするためにこれを村のはずれにある祠に持っていかなければいけない。
「……ああ、行こう」
16年も一緒にいたから、アナザがいつもと違う雰囲気なのは感づいていた。
けど、それはこれから行われる儀式に緊張しているのだと思っていた。
何故なら毎年春になると行われるこの村の儀式は、失敗すれば邪悪な魔王が復活してしまうからだ。
俺とアナザは道具を一式持って、村人が集まる祠へと向かった。
数十人の村人が大慌てで儀式の準備をしている。
祠は村から少し歩いた森の中にあり、泉に囲まれた神聖な場所だ。
今日は天気がよく、木漏れ日がこの辺りを照らしている。
「遅いぞ、ガッツ。儀式が遅れたらどうするんだ」
慌てた顔で話しかけたのは俺のオヤジだ。隣には母さんもいる。
「いや、アナザの動きがとろくてさ」
俺は一緒に来たアナザのせいにした。
まぁ、半分は冗談だ。
「すみません。遅れました」
アナザは素直に親父に謝った。
俺は親父に対して生意気な口をよく聞くけど、こいつはいつまでたっても敬語だった。
ただの幼馴染の親にならそうでもおかしくないけど、俺たちは一緒の家に住んでいるのだ。
「うん、まあ、仕方ない。すぐに仕上げるぞ」
「ちゃんと謝れるのはいいことですよ」
俺の両親二人はアナザにあまあまだった。
アナザの両親は彼が生まれてばかりの頃、腹をすかせた獣が山から下りてきて、その時に襲われて亡くなった。
それからは、アナザの親と仲が良かった俺の両親に引き取られた。
同い年で一緒に育った俺たちは、親友でもあり兄弟だった。
俺たちが来たことにより村人が全員揃ったので、儀式がまもなく始まろうとしていた。
巨大な祠の前には聖水の入った壺に、大量の食糧など、豪華なものが供えられたいた。
「それではこれより、魔王封印の儀式を行う」
俺たちは何列かに並びその場で跪いた。
そして両手をくっつけ、目を閉じる。
「アルデバランリョウデバラントゥルマバラン……」
この儀式を取り仕切る村長が、封印の呪文を何度も口づさむ。
毎年こんなことをやらなくてはいけないは面倒だが、仕方がない事だ。
村長が言った通りこの儀式は魔王を封印し続けるために必要なこと。
目の前の祠にはかつて世界を脅かした魔王と呼ばれる凶悪な魔物が封印されている。
封印したのはこの村の出身である勇者と呼ばれる存在だった。
長き戦いの後魔王を倒すことに成功したが、完全に消滅させることはかなわなかった。
そのため、ここに封印をして毎年儀式を行って平和を保っている。
並の魔物だったら今の俺でも負ける気はしないが、魔王なんて名前を出されちまったら従うしかない。
俺たちが村長の呪文と共に祈りを続けていると、隣で何かが動く気配がした。
隣にはアナザが一緒に座っているはずだ。
祈りの途中だぞ?
確認しようにも、そうすれば俺が祈りを中断してしまう。
ただの俺の思い過ごしだった時、俺が儀式を中断させてしまう。
体勢を変えたとかそんなことだ。
そんな風に思っていた。
今思うと、もっと疑うべきだった。
史上最悪の事態は、この後起きてしまったのだ。
不安に駆られながら祈りを続けていると、いきなり「ヴォン!!」と爆発音が響いた。
これを聞いた俺は、いや村人全員は反射的に目を開けてしまう。
すると信じられない光景が広がっていたのだ。
なんと、祠とその周辺にあった供物に火がついているのだ。
「な、なんということだ!!?」
唱えることを中断した村長が慌てふためいている。
なんなんだ、何が起こってるんだ。
村人たちが一斉に近くの泉に行き、水をかけようとする。
しかし、水を汲めるような壺は一緒に燃え尽きており、何もできないでいた。
「くそっ、スイルス」
それを見かねた村人の一人が、咄嗟に水の中級魔法を使おうとした。
体内に眠る魔力を放出し水に変えて飛ばす魔法だ。
魔力を持った人間は多くなく、この村では彼ぐらいだった。
「邪魔をしないでくれ」
俺の近くから、低く暗い声が聞こえてきた。
その声を俺はよく知っている。
けど、何故そいつがこんな台詞を言うんだ。
「アナザ! てめぇ、何してんだ!」
声のする方を見ると、火のついた弓矢を構えているアナザの姿があった。
俺は弓先に灯る炎を見て、嫌でも感づいてしまう。
祠に火を放ったのも、こいつの仕業だと。
「ガッツ、馬鹿のお前でも見ればわかるだろう」
アナザはそう言って矢を魔法使いの村人にはなった。
「馬鹿野郎! 避けろ!」
村人は予想外の攻撃を、避ける暇もなく喰らってしまった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
すぐに全身に燃え広がり、彼を焼き付かせようとする。
もがき狂しむが、混乱状態になっておりその場でじたばたと動いているだけだった。
他の村人は、次々と起こる事態に頭が追い付けないでいた。
俺もその一人だが、俺の場合脳は停止していても、体が勝手に動いていた。
「おぉぉぉぉぉ」
立ち上がった俺は全速力で燃えている村人に走っていく。
そして、そのまま体当たりをする。
すると、俺たち二人は勢い余って後ろにある泉へと突っ込んでいく。
俺にも一瞬炎を回ったが、すぐに泉の水で消火される。
俺の体が冷たい水を打ち付ける。
炎と冷水を同時に味わったのは初めてかもしれない。
異常事態に感覚が麻痺していたのか、不思議と痛みはなかった。
泉はそれほど深くないので、体を真っすぐにすればすぐに足がついた。
「大丈夫か!?」
「う、うぅぅ……」
髪はほとんど燃え、皮膚も酷い火傷だがなんとか息はしていた。
村にある上質な薬を使えば、まだ助かる可能性はある。
すぐ近くに泉があって本当によかった。
俺はそこで一安心してしまったが、問題は何も解決していなかった。
彼が魔法を打てなかったことで、祠を燃やす炎の手は止まることがなかった。
「ぎ、儀式が、まずい……まずいぞ」
村長はじめ、全員の顔が青ざめていた。
儀式の中断、その意味を全員が分かっていた。
ついに、大昔にこの世界を荒らしまわった魔王が、復活してしまうのだった。
俺が親友の心の闇に気がつけなかったせいで、事件は起きてしまったのだ。
遡ること数時間前、俺の村では魔王封印儀式の準備をしていた。
「どうかしたか? アナザ」
俺は村のはずれにある蔵のなかで、一緒に整理をしていた幼馴染に声をかけた。
「……いや、なんでもない」
短めの茶髪をしたアナザは、蔵の奥にある武器をじっとみていた。
剣に槍、弓矢もいくつか置いてある。
しかし、村は基本的に平和なのでほとんど使われず埃をかぶっている。
俺たちが住むイノリの村は、争いもなく戦うとすれば狩りぐらいだ。
俺とアナザも16になった今年から、狩猟に参加をしている。
「もうすぐ儀式だ。速くいくぞ」
俺は両手に大き目の壺を抱えており、儀式をするためにこれを村のはずれにある祠に持っていかなければいけない。
「……ああ、行こう」
16年も一緒にいたから、アナザがいつもと違う雰囲気なのは感づいていた。
けど、それはこれから行われる儀式に緊張しているのだと思っていた。
何故なら毎年春になると行われるこの村の儀式は、失敗すれば邪悪な魔王が復活してしまうからだ。
俺とアナザは道具を一式持って、村人が集まる祠へと向かった。
数十人の村人が大慌てで儀式の準備をしている。
祠は村から少し歩いた森の中にあり、泉に囲まれた神聖な場所だ。
今日は天気がよく、木漏れ日がこの辺りを照らしている。
「遅いぞ、ガッツ。儀式が遅れたらどうするんだ」
慌てた顔で話しかけたのは俺のオヤジだ。隣には母さんもいる。
「いや、アナザの動きがとろくてさ」
俺は一緒に来たアナザのせいにした。
まぁ、半分は冗談だ。
「すみません。遅れました」
アナザは素直に親父に謝った。
俺は親父に対して生意気な口をよく聞くけど、こいつはいつまでたっても敬語だった。
ただの幼馴染の親にならそうでもおかしくないけど、俺たちは一緒の家に住んでいるのだ。
「うん、まあ、仕方ない。すぐに仕上げるぞ」
「ちゃんと謝れるのはいいことですよ」
俺の両親二人はアナザにあまあまだった。
アナザの両親は彼が生まれてばかりの頃、腹をすかせた獣が山から下りてきて、その時に襲われて亡くなった。
それからは、アナザの親と仲が良かった俺の両親に引き取られた。
同い年で一緒に育った俺たちは、親友でもあり兄弟だった。
俺たちが来たことにより村人が全員揃ったので、儀式がまもなく始まろうとしていた。
巨大な祠の前には聖水の入った壺に、大量の食糧など、豪華なものが供えられたいた。
「それではこれより、魔王封印の儀式を行う」
俺たちは何列かに並びその場で跪いた。
そして両手をくっつけ、目を閉じる。
「アルデバランリョウデバラントゥルマバラン……」
この儀式を取り仕切る村長が、封印の呪文を何度も口づさむ。
毎年こんなことをやらなくてはいけないは面倒だが、仕方がない事だ。
村長が言った通りこの儀式は魔王を封印し続けるために必要なこと。
目の前の祠にはかつて世界を脅かした魔王と呼ばれる凶悪な魔物が封印されている。
封印したのはこの村の出身である勇者と呼ばれる存在だった。
長き戦いの後魔王を倒すことに成功したが、完全に消滅させることはかなわなかった。
そのため、ここに封印をして毎年儀式を行って平和を保っている。
並の魔物だったら今の俺でも負ける気はしないが、魔王なんて名前を出されちまったら従うしかない。
俺たちが村長の呪文と共に祈りを続けていると、隣で何かが動く気配がした。
隣にはアナザが一緒に座っているはずだ。
祈りの途中だぞ?
確認しようにも、そうすれば俺が祈りを中断してしまう。
ただの俺の思い過ごしだった時、俺が儀式を中断させてしまう。
体勢を変えたとかそんなことだ。
そんな風に思っていた。
今思うと、もっと疑うべきだった。
史上最悪の事態は、この後起きてしまったのだ。
不安に駆られながら祈りを続けていると、いきなり「ヴォン!!」と爆発音が響いた。
これを聞いた俺は、いや村人全員は反射的に目を開けてしまう。
すると信じられない光景が広がっていたのだ。
なんと、祠とその周辺にあった供物に火がついているのだ。
「な、なんということだ!!?」
唱えることを中断した村長が慌てふためいている。
なんなんだ、何が起こってるんだ。
村人たちが一斉に近くの泉に行き、水をかけようとする。
しかし、水を汲めるような壺は一緒に燃え尽きており、何もできないでいた。
「くそっ、スイルス」
それを見かねた村人の一人が、咄嗟に水の中級魔法を使おうとした。
体内に眠る魔力を放出し水に変えて飛ばす魔法だ。
魔力を持った人間は多くなく、この村では彼ぐらいだった。
「邪魔をしないでくれ」
俺の近くから、低く暗い声が聞こえてきた。
その声を俺はよく知っている。
けど、何故そいつがこんな台詞を言うんだ。
「アナザ! てめぇ、何してんだ!」
声のする方を見ると、火のついた弓矢を構えているアナザの姿があった。
俺は弓先に灯る炎を見て、嫌でも感づいてしまう。
祠に火を放ったのも、こいつの仕業だと。
「ガッツ、馬鹿のお前でも見ればわかるだろう」
アナザはそう言って矢を魔法使いの村人にはなった。
「馬鹿野郎! 避けろ!」
村人は予想外の攻撃を、避ける暇もなく喰らってしまった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ」
すぐに全身に燃え広がり、彼を焼き付かせようとする。
もがき狂しむが、混乱状態になっておりその場でじたばたと動いているだけだった。
他の村人は、次々と起こる事態に頭が追い付けないでいた。
俺もその一人だが、俺の場合脳は停止していても、体が勝手に動いていた。
「おぉぉぉぉぉ」
立ち上がった俺は全速力で燃えている村人に走っていく。
そして、そのまま体当たりをする。
すると、俺たち二人は勢い余って後ろにある泉へと突っ込んでいく。
俺にも一瞬炎を回ったが、すぐに泉の水で消火される。
俺の体が冷たい水を打ち付ける。
炎と冷水を同時に味わったのは初めてかもしれない。
異常事態に感覚が麻痺していたのか、不思議と痛みはなかった。
泉はそれほど深くないので、体を真っすぐにすればすぐに足がついた。
「大丈夫か!?」
「う、うぅぅ……」
髪はほとんど燃え、皮膚も酷い火傷だがなんとか息はしていた。
村にある上質な薬を使えば、まだ助かる可能性はある。
すぐ近くに泉があって本当によかった。
俺はそこで一安心してしまったが、問題は何も解決していなかった。
彼が魔法を打てなかったことで、祠を燃やす炎の手は止まることがなかった。
「ぎ、儀式が、まずい……まずいぞ」
村長はじめ、全員の顔が青ざめていた。
儀式の中断、その意味を全員が分かっていた。
ついに、大昔にこの世界を荒らしまわった魔王が、復活してしまうのだった。
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