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闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝(夢八)

無人宿

「私は、この方を連れて、
安全な所に避難します!」

剣を掲げて戦いの指揮を執る
若い男性に俺は話しかけ、
嘘の報告をでっちあげた。
どこの国かは分からないが、
全身を赤い格好で統一している
謎の集団がいて、
そいつらが城を破壊したと。
そんな彼らと戦い、
怪我をしていたクレを俺は助け、
これから逃げると。

「分かった!
近衛兵団長様を頼む!」

男性は何の疑いもなく、
俺の言うことを信じた。
用が済んだので、
俺はさっさと宿に向かう。
もう夜が更けてきているというのに、
あちこちの家から
剣や弓を持った大人達が出てくる。
皆、敵国の襲来だと勘違いして
戦おうとしているのだろう。
実際は敵国なんていないのに。
そんな喧騒の中を、
俺は人の流れに逆らいながら
宿に向かって走っていく。

「…静かだな」

誰に怪しまれることもなく、
難無く宿に辿り着いた俺だったが、
最初に出た言葉はそれだった。
宿に泊まっていた人達さえ、
敵のいない戦いに
身を投じているのだろうか。
しかし、それなら俺達にとっては
都合がいい事この上ない。
誰もいないのなら、
喧騒が静まるまで
ただ静かに待つだけなのだから。

「二人とも、大丈夫だったか――」

俺達が泊まっている部屋は
この宿屋の2階にある205号室。
扉にも、205と書いてあった。
俺が部屋を間違えた訳ではない。
シイラ達がアユの為にと買ってきた
大量の服がそのまま残っているのが、
その何よりの証拠だ。
だから、俺の脳はすぐに判断した。
――シイラ達が帰ってきていない。

「クレ、すまん!」

俺は部屋のベッドに
雑にクレを放り投げ、
急いで宿の外に出る。
チュニがいないのはまだ分かるが、
俺より先に宿に向かった
シイラとフィユがいないのはおかしい。
シイラが道に迷うはずがないし、
寄り道なんてしてる
暇がないことも分かっているはずだ。
そこから導き出される答えは、
『シイラ達が何かに巻き込まれている』

「どこにいるんだ…?」

勢いよく飛び出したはいいが、
シイラ達がどこにいるのか
さっぱり分からない。
しかし、俺は考える。
シイラは無駄なことはしない。
あの場所から宿に向かう
最短のルートを使うはずだ。
何かに巻き込まれたのなら、
その途中のどこか…
だと俺は思うしかない。

「……よし」

ある程度考えがまとまれば、
あとは体を動かしながら考える。
何かに巻き込まれたと言っても、
シイラとフィユなら
大体のことは対処できるだろう。
少しくらい時間がかかっても、
自分達で解決できる。
しかし、二人が苦戦するような
相手に絡まれていたら?
そう、例えば魔王の幹部的存在、
『宝石』が来ていたら?
と、そこまで考えて、俺は足を止めた。
いや、止めるしかなかった。
俺の視界に、
シイラとフィユが映ったのだ。
シイラは額から血を流し、
肩で息をしている。
フィユは気を失っているのか、
地面に突っ伏して動かない。
そして、シイラとフィユを
見下ろすように立っていたのが、
一人の小さな少年だった。


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