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闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝(夢八)

脱出

幸いなことに、
黄金の部屋から出口までは
距離こそあるが複雑ではない。
俺は気を失っているクレを背負い直し、
全力で廊下を駆けていく。
徐々に揺れが大きくなり、
廊下に飾られている
高級そうな壺が落ちる。
シャンデリアが落ち、
壁にはヒビが入る。

「…加速スピード

もう、間に合わないかもしれない。
そう俺が思ったその時、
俺の背中から声が聞こえ、
俺達の走る速さが2段階ほど上がる。
今まで闇の力を使わずに
これほどの速さで動いたことはない。
なので、肌に受ける風の感触を
きちんと感じたのはこれが初めてだ。
まさに風を切るような速度で、
肌に風の抵抗を僅かに受ける。
俺と同じようにシイラとフィユも
突然の敏捷力アップに
驚きはしたようだが、
何も変わらずに全力で走る。
そして、城が完全に崩壊する直前に、
俺達は無事に城を脱出できた。

「間一髪だったな…」

俺達は人影のない路地まで移動し、
肩で息をする。
来た時には門番がいたが、今はいない。
おそらく、ザンマの呼び出しに応じて、
俺達を殺そうとしていた近衛兵の中に
混じっていたのだろう。
今頃は、ザンマと共に
城という名の瓦礫の下敷きになっている。
立派な風貌だった城は、
今やそれを見る姿もない。
戦争に負けて廃墟となった
ボロボロの城よりも、
中の人間のことを想像すると
何倍も悲しい城である。

「良かったよ…間に合って…」

クレを壁に寄りかけて座らせる。
すると、重たそうに目を開き、
途切れそうな言葉を繋いだ。
あの走る速度が上昇した魔法、
それは俺の背中にいたクレが
精一杯に使った魔法だったのだ。
しかし、自分以外の人間、
それも複数にかけられる魔法とは、
本当に便利なものである。
近衛兵を率いる者が持つに
相応しい魔法だ。

「あぁ、本当に助かった。
お前がいなければ、
今頃俺達は潰れていただろうよ。
だが、この話は後回しだ。
回復薬使ってやるから、今は寝ていろ」

戦闘中はそれどころではなかった為、
回復薬とかその他のアイテムを
一切使っていなかったが、
ここでようやく使う時がきた。
俺はアイテム袋から取り出した
回復薬と魔力回復用の回復薬を
それぞれに渡す。
クレは自分で使うのが困難そうだったので
俺が口に流し込んでやった。

「よし、皆大丈夫か?
大丈夫なら宿に――」

「敵襲!敵襲ー!」

俺が宿に向かおう、と
そう言おうとしたその時、
切羽詰まったような雰囲気で
力づいてくる気配がした。
なに、少し考えれば分かることだ。
自分達が暮らしている国の
王様がいる城が急に崩れたのだ。
敵国からの襲撃だと
誰もがそう思うだろう。
実際は、その王様が暴走して
こうなっているのであるが…。

「皆!家にある武器になる物を持て!
俺達の国をこれ以上奴らの
好きにさせてなるものか!」

いや、だから。
他の国の奴とかいないんだって。
…って思っても仕方がない。
ここは、何とかして
シイラ達を安全な場所まで避難させよう。
俺はクレを再び背負って、
シイラ達に背中を向ける。

「シイラ、フィユ。
お前達はできるだけ目立たないように
俺達が泊まってる宿に行け。
女の子だけなら、
誰も怪しんだりしないだろう」

「深慈君は?」

「俺はクレを助けた旅人を装って、
後から宿に向かう。
チュニ、お前は一度俺から離れて
遠くの方で騒ぎを起こせ。
その隙に行動を開始する」

「了解だぜ!」

手短に指示を飛ばし、
チュニは元気よく
遠くの方に羽を羽ばたかせる。
3分程待つと、どこかで魔法が
爆発するような音がした。

「よし、二人とも行け!」

シイラはフィユの手を掴み、
俺とは反対向きに走り出す。
俺もクレを背負い直し、
混乱している街の中に駆ける。

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