闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

洗脳魔法

その答えは、
戦闘が始まってから
割とすぐに明らかになる。
遂に痺れを切らしたザンマは、
持っている黄金の扇を広げ、
勢いよくそれを横に振る。
すると、キラキラと光る金粉が
部屋中に撒き散らされ、
降り注いでくる。

「――っ!?
主!こいつぁヤバいぜ!」

「っ!?」

チュニの声が耳に届く。
しかし、クレの相手をしている以上、
俺は迂闊に注意を逸らせない。
チラッと視界に入ったのが
キラキラと光る金粉というだけで、
他には何も見えていないのだ。
――だから、その金粉自体が
ヤバい代物だと気づかなかった。
だが、俺の仲間には
俺やチュニ以上に
第六感に優れた人物がいる。


「――精霊の守護陣エンジオーラ!」

フィユである。
フィユが一振した杖は、
俺やシイラ達に青色のオーラを纏わせる。
そして、金粉が近衛兵達に触れた。
近衛兵達はすぐに動きを止め、
身に降り注いでくる金粉を
体全体で受けようとする。

「神からの祝福だ!」

「俺は神に選ばれたんだ!」

「ああ!慈悲深き神よ!」

全身に金粉を浴びて、
近衛兵達は悦んでいる。
その時、見えてしまったのだ。
彼らの瞳から、
輝きが失われていくのを。

「主!これは洗脳だぜ!」

――っ、そういうことか。
だから近衛兵達は
団長であるクレはそっちのけで
ザンマの指示を聞くのか。
近衛兵達はフラフラになりながらも、
剣を握り直す。
その目は完全に自我を失い、
もはやゾンビのようになっていた。
が、クレだけは違った。
クレは剣で自らの足の甲を突き刺し、
理性を保とうとしていたのだ。
しかし、その瞳の輝きは
今にも消えてしまいそうになっている。

「に、げるんだ……千夜…」

クレは苦しそうにしながらも、
俺の名前をはっきりと呼んだ。
だが、そんなクレを見過ごす程、
ザンマは甘くなかった。

「貴様、魔法から逃れたな。
小賢しい奴だ。
だが、今度は小細工など通用せぬぞ」

ザンマは黄金の扇を閉じ、
それをクレに向けた。
すると、扇の先端に光が集まり、
あっという間に光の球ができた。
俺は、その光が洗脳の
魔法の類いの物だとすぐに悟る。
それは、俺だけでなく、
チュニやシイラも同様だった。

「フィユ――!」

「くらえ!」

精霊の守護陣エンジオーラ!」

俺がフィユの名前を呼ぶのと、
ザンマが扇の先端から
光の弾丸を飛ばしたのはほぼ同時。
俺が呼ぶことが分かっていたのか、
フィユの行動も早かった。
フィユは先程俺達にも使った魔法で、
クレに青色のオーラを纏わせた。
ザンマの放った魔法は、
フィユの魔法によって
跡形もなく消え去り、
あとには固まったザンマがいる。
まるで、今まで誰にも防げなかった魔法が
防がれてしまって
驚きのあまりに動けなくなったようだ。

「き、貴様ら…!」

ここで、とうとうザンマの怒りが
頂点に到達してしまう。
ザンマは腰から下げていた
黄金の剣を引き抜き、
俺達の方に向ける。

「役立たずの近衛兵共!
今すぐにこいつらを殺せ!
そこにいる団長も殺せ!
手足を引きちぎり、
体をズタズタに切り裂いて、
血がなくなるまで
徹底的に殺せ!!」

「「「おぉぉ!!」」」

これは、非常にまずい。
洗脳の影響を受けてか、
近衛兵達の動きが
明らかに速くなっている。
何の感情も抱いていない
輝きを失った瞳は、
ただ目の前の標的を
殺すことだけで動いている。
俺は何とかまだ意識を保っている
クレの首根っこを掴んで、
アユの隣りに放り投げる。
そして、アユとクレを囲むように
シイラとフィユと俺で
背中を向け合った。

「チュニ!何か逃げる為の
便利な魔法とかないのか!?」

迫り来る近衛兵達を
相手取りながら、
俺は魔法で近衛兵達を攻撃する
チュニに向かって叫ぶ。

「そんなのがありゃ、
こうなる前に使ってるぜ!」

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