闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

戦闘開始

黄金の扉が三度開き、
大量の近衛兵達が部屋に押し寄せる。
中には昼間にクレと一緒にいた
近衛兵もいて、
俺を見ると睨みつけてくる。

「そこにいる者共を捕え、
牢屋に連れていけ!」

駆けつけてきた近衛兵は
ざっと見た感じでも
100人は越えている。
その全員が剣を抜き、
瞬く間に俺達を取り囲む。

「ペリー、無駄な抵抗をしないでくれたら
怪我をすることもない。
どうか俺に君を傷つけさせないでほしい」

彼らの中でただ一人だけ
剣を抜いていないクレが
悔しそうな表情で俺を見る。
人を守るのが役目の近衛兵たるもの、
理不尽な王の振る舞いで
無闇に人を傷つけたくないのだろう。
しかし、クレの後ろにいる
他の近衛兵の連中の目は本気だ。
誰一人として穏便に
事を済ませようとはしていない。
いくらクレが団長で、
彼らに命令したとしても、
国のトップであるザンマに言われては
クレの命令も無視するはずだ。

「俺だって、お前みたいな
顔も性格もイケメンな奴相手に
歯向かわなければならんと考えると、
残念以外の言葉が出てこねぇよ」

「――っ!」

クレは自身の唇を噛む。
爪が手のひらに食い込むのもお構いなしに
固く硬く拳を握り締める。
本当に、クレのような奴に
こんな思いをさせるのは心苦しい。
しかし、今の俺には
自分以上に守るべき物がある。
どれだけの事があろうと、
俺は必ず守り抜いてみせる。

「シイラ、フィユ。
2人はアユを背にしながら戦え。
俺はまだ昼寝から起きてない
寝坊助を叩き起してから
こいつらを蹴散らすからよ。
それから、俺が合図したら
アユを連れて先に逃げろ。
俺達が泊まってる宿屋で合流だ」

シイラはアユを床に座らせて、
細剣を抜く。
フィユはコートの下に隠していた
魔法の杖を取り出し、
両手でキュッと握る。
そして、俺はポケットに手を入れ、
中から一つの石を出す。
これは、現在チュニが眠っている石だ。
チュニは悪魔の姿で眠ることも出来るが、
こうして目立たないように
石の中でも眠れるのだ。
俺がその石に軽く息をかけると、
石が宙に浮かび上がり、眩い光を放つ。
視界を取り戻した後に見れば、
そこには元気に羽を広げるチュニがいる。

「やっと出てこられたぜ。
と思ったら、何か想像以上に
大変なことになってんな」

チュニは周囲をキョロキョロと見ると、
俺の肩に舞い降りる。

「俺としては、もう少し話が通じてほしい
ってのが本音なんだが、
こうなってしまったからには
もうやるしかねぇな」

俺は頭を掻き、
長い前髪を掻き上げる。
そんでもって、クレを睨む。

「クレ、良い奴のお前に、
最後に教えておいてやろう」

「…何だ」

俺はわざともったいぶって、
クレが隙を見せるのを窺う。
しかし、さすがは近衛兵団長だ。
隙を見せる素振りすらない。
それならもう考えるのは辞めだ。
力づくでここを突破する。

「俺はマシュー・ペリーなどではなく、
異世界から召喚された、勇者の一人。
……千夜深慈だ」

きちんと言い終わる前に、
俺は動き出していた。
素早い動作でクレに接近し、
その横っ腹に渾身の蹴りを入れる。
俺が勇者だと名乗った瞬間、
クレは僅かな動揺を見せたのだ。
その動揺を見逃さず、
俺は先制攻撃を仕掛けた。
咄嗟に腕でガードしたクレだが、
俺の蹴りの威力を消すことはできず、
数人の兵達を巻き込んで
吹っ飛んでいった。
それを皮切りに、
黄金の部屋は戦場と化す。
シイラとフィユはアユを背にしながら
剣と魔法で攻防を繰り返し、
俺は純粋な体術で、
チュニはこの辺り一帯を
消し炭にしない程度の魔法で
兵達を吹っ飛ばしていく。

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