闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

シイラの意志

部屋に戻ってドアを開けると、
俺はいきなりシイラに睨まれた。
シイラはズンズンと音をたてながら
俺に近づいてくると、
一枚の紙を俺の顔の前に突き出す。

「深慈君、これ何?」

それをよく見れば、
ゴミ箱に捨てたはずの
ザンマからの手紙であった。
俺の行動を不審に思ったシイラは、
ゴミ箱からそれを発掘して、
中を見たのだろう。
まるで般若のような形相で
俺を睨んでくるシイラは、
浮気の追及をする彼女のようだ。
俺、彼女いたことないけど。

「見ての通り、お前の父親からの手紙だ。
直接会ったことなんて無いが、
ゴミ野郎であることは間違いない。
だから、無視することにした」

俺は変に誤魔化すことはせず、
正直に事実を述べる。
椅子の方に移動して、
アイテム袋から冷たい水を出す。
この風呂上がりの水が美味いんだ。

「…行かないの?」

「ああ。行かない」

「行こうよ」

「はぁ?」

何をバカなことを言っているんだ。
どれだけ血の繋がりがあろうと、
ザンマは人間のゴミだ。
無理矢理に女の子を連れ帰り、
逃げたら家族諸共殺す。
クズ過ぎて弁明の余地もない。
だが、そんなことは
シイラも分かっているようで、
力なく下を向き、
それでも何か言いたげにしている。

「罠の可能性もある。
行けば俺達全員殺されるかもしれない」

こういう時は、
誰かがはっきりと
言ってやる必要がある。
無駄な期待は抱くだけ無駄なのだから。

「そいつは人間のクズだ。
今まで何人殺したか見当もつかない」

シイラは耳を塞ぎたくなるのを
必死の必死に堪えて、
手に持ったままの紙を
しわくちゃにする。

「それに、そいつは捨てたんだ。
お前の母親も、お前もな」

「そんなこと分かってる!」

シイラは叫んだ。
まるで聞きわけのない子どものように。
瞳にいっぱいの涙を溜めて。
けれど、確かな意志を感じた。

「別に私は、この人に会いたいとか、
そういうことじゃなくて、
私とお母さんを捨てたこの人に、
一発言ってやりたいだけなの!
どうして、あなたはそうなのかって!」

壁からドンと音がする。
隣りの部屋に泊まっている客が
うるさいと怒っているのだ。
俺はシイラをベッドに座らせて、
俺が飲む予定だった水を差し出す。
シイラはハッと我に返り、
水を受け取った。
シイラの言いたいことは分かる。
何も知らずに急に国を追い出され、
自分の両親の過去の話を聞かされ、
またとない会える機会に
何もしないというのは
到底納得できないだろう。
だがしかし、シイラの父親であるザンマは
明らかに意図を持って
シイラを追い出している。
ザンマが何を目論んでいるのかは
俺にはさっぱり分からないが、
危険な雰囲気が漂っている。

「…安全を最優先するか、
シイラの気持ちを尊重するか…」

一度は俺の中で結論を出したが、
それは俺の個人の意見でしかない。
俺達は仲間であり、俺はリーダーだ。
仲間の意志を汲み取らないで、
どこでリーダーと語れるのか。

「お父様…」

ベッドの上で膝を抱き、
そう呟いたシイラを見て、
俺は無視することが出来なかった。
それがどうしてなのか、
その答えは明確で、
俺は溜め息を吐いた。

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