闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

手紙の選択肢

「だが、何でこんなもんを…?」

気になるが、それをどれだけ考えても
答えが出る訳はない。
綺麗な装飾を眺めるのもそこそこに、
俺は一緒に入っていた
紙を広げて読んでみる。

『我が娘に近づいた愚か者よ、
貴様の犯した罪は重い。
本来ならば指名手配をして、
捕まり次第、即刻打ち首となっても
何の文句も言えない程である。
が、そうしないのは、
貴様の功績をたたえてのことだ。
光栄に思うがいい。
そして、貴様を賞賛する為に
特別に貴様を我が城に招待しよう。
我が直々に書いたこの紙を読んだら、
他の全てを差し置いて
我が城に娘と共に来ることだ。
もし、貴様一人で来たり、
影武者を送ろうものなら、
貴様を指名手配して殺す。

タアラ国王
ザンマ・メイズ・タアラ 』

俺は手紙を読み終えると、
元あったように筒に入れる。
それを部屋のゴミ箱に放り投げた。
ユーカリの紋章は
綺麗だからアイテム袋にしまっておく。

「ゴミ野郎が…」

正直に言って、行く気はない。
どう考えても罠としか思えないのだ。
あちらから出向いてくるのなら
まだ信用の余地はあるが、
城に来いとか言われたら
誰でも疑うだろう。
ザンマの言う娘とは、
おそらくシイラのことだろうが、
シイラを連れて行った所で
一体何をしようというのか。
最後に堂々と殺すとか書いてあるし、
これは無視する以外の選択肢はない。

「…風呂に行ってくる」

俺は心を落ち着かせる為に
一度スッキリしようと思った。
なんとこの宿屋には、銭湯があるのだ。
今までは風呂といっても、
ゆっくり出来る程の広さはなかったし、
面倒だったので簡単に済ませていた。
しかし、今の俺には
落ち着いて考える必要があった。

「行ってらっしゃい」

部屋を出て、銭湯に向かう。
『男』と暖簾がかけられた
部屋に入って、脱衣場で服を脱ぐ。
木製の引き戸を開けると、
中から湯気が立ち込める。
元いた世界の銭湯に比べれば
そこまで広くないし、
シャンプーも置いてない。
だがそれでも、ゆっくりするには
十分な空間であった。
シャワーがない為、
湯船に溜められたお湯を
桶で掬って体にかける。
ある程度流したら、
そのまま湯船に入る。
お湯の温度は40℃前後で、
俺にはちょうどいい熱さだ。

「あ~~…」

自分でも可笑しくなってしまう位の
オッサン加減を感じながら、
俺は頭の中をリセットする。
考えることは無論、
先程のザンマからの手紙だ。

選択肢その1
罠である可能性を考慮して、
俺一人で突撃。
しかしこれをすると、
俺の生存確率は低くなるし、
シイラ達の安全も保証できない。
おそらくザンマは、
ユーカリを総動員して
俺達を殺そうとするだろうから。

選択肢その2
シイラと俺の2人で突撃。
これならザンマの要求を満たしているし、
仮に俺達を殺そうとしても
俺とシイラだけなら
逃げ切ることもできるだろう。
だが、そうした場合、
今後タアラには来れなくなる。

選択肢その3
無視。
今俺の中では最も勝率が高い。
ザンマも手紙には、
『この紙を読んだら』と書いてあった。
なら、見なかったことにすれば
それで済むような気がする。
もういっその事、
洞窟の報告とかせずに
トンズラすればいい。
そうしたらザンマも
何も文句は言えないだろう。

「決まりだな」

俺は早々に決断して、
風呂から上がる。
脱衣場に置いてあるタオルで
しっかり全身を拭いて、
服を着て部屋に戻る。

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