闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

ギルドに報告

しばらく時間がかかるとのことで、
俺は宿屋の周囲を
フラフラと散歩することにした。
この宿屋はタアラの中心から
少しだけズレたところにあり、
歩いていくだけで
賑わっている場所にも行けるし、
貧民街にも行ける。
俺は中心の方に向かって歩き、
食べ物の屋台を冷やかしながら
てくてくと観察した。
そこまで高い建物はないが、
どれも立派な建物だ。
噴水の前でナイフをジャグリングする
ピエロのお兄さんがいて、
小さな移動車でアイスを売るおじさん、
この街並みを絵に描くお姉さん、
クレープを食べながら
楽しそうに会話する親子。
賑わっているからこその景色に
俺は感心しつつ、
見かけた貧民街の子ども達の様子と
どうしても比べてしまう。
なぜ、同じ国の同じ人間なのに
こうも差が出てしまうのか。

『人は皆、平等に不公平なのです』

いつ誰が言ったかも知らない
衝撃のある名言を思い出して、
俺はひどく納得した。
そうやって物思いに耽りながら
歩いていると、目の前に立つ建物を見て
俺は一つのやるべき事を思い出した。

『タアラの冒険者ギルド』

まだ、あの洞窟内で起きていた
出来事の詳細や、
それが既に俺達が解決してしまったことを
ギルドに報告していない。
今はシイラ達もいないし、
俺一人ならどうとでもなる。
思い立ったが吉日、
俺は一度物陰に隠れて
アイテム袋から顔を覆える程の
フードコートを取り出す。
フィユの顔を隠す為に
コートを買った際に
同時に買っていた物だ。
フードを被り、更に紙とペンを出す。

『洞窟には、強い意志を持った
ゴーストが住み着いていた。
そのゴーストが様々な魔法を使い、
入ってくる冒険者を消していた。
ゴーストはもう私が退治しておいた。
報酬があるなら寄越せ。
ただし、内密に頼む』

慣れない異世界語で
一通りの簡単な報告書を作成し、
それを持って俺は
ギルドの入り口を目指す。
他の建物と比べても
その存在感を十分に発揮している
ギルドの前に立つと、
思わず声が出てしまいそうになる。
出そうになった声を
腹の底に押し込んで、
俺は金箔で飾られた扉を押した。

「うるせぇな…」

一言目の感想がそれだった。
ギルドの中身はシンプルで、
左側に依頼が貼ってあるボード、
正面に受付、右側に食事処。
といっても、ほとんどのスペースが
食事処になっており、
受付は全部で3つしかない。
その食事処では、
大勢の冒険者達が騒ぎながら
楽しく食事をしていた。
まさに、冒険者ギルド、
というような雰囲気である。
俺は鬱陶しく思いつつも、
一番左側の受付に向かう。

「おかえりなさいませ。
依頼の受理ですか?報告ですか?」

そう言って笑顔で
俺を迎えてくれたのは、
20代前半の可愛らしい女性だった。
茶色の髪を肩にかかる程の長さにして、
真面目そうな縁なしメガネをかけ、
ニッコリと笑うと
まるで実家に帰ったような安心感がある。
俺に安心感のある実家の記憶なんて
ほとんど失われていると思っていたが、
まだ俺はそこまで沈んではいないらしい。

「……」

俺は先程書いた紙を
無言で彼女の前に置く。
彼女は不思議そうな顔をして
紙に手を伸ばすと、目を通し、
すぐに何か理解すると
いそいそと別の紙に書き出した。

『あの洞窟の依頼は、
この国で最高難度の依頼なので、
報告はギルドではなく
国王の方に直接お願いします』

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