闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

母親の過去

彼女の名前はアユ・サラというそうだ。
アユはタアラの民家に産まれ、
元薬屋の母親と近衛兵の父親、
3つ離れた妹と4人で暮らしていた。
母親は若い時から
数々の男に言い寄られる程の美人で、
アユと妹もその美貌を受け継いでいた。
綺麗な青の髪と紫の瞳。
それらはアユの母親と同じ色だった。
家の近所からは美人一家と噂され、
人当たりもいいことから
理想の家族と言われていた。
そして、アユが16歳のある日のこと。
当時24歳のタアラの王の息子、
名前をザンマ・メイズ・タアラが
街で見かけたアユを気に入り、
王宮に来るように命じた。
しかし、この時既にアユには
将来を誓った男がおり、
ザンマの命令を断る。
それに激怒したザンマは
アユの家を兵士に襲わせ、
アユを連れ去り、強姦した。
それから約1ヶ月後、
アユはザンマの子を妊娠。
長い長い妊娠生活を王宮で過ごし、
アユの知らぬ間に
ザンマとの婚姻が成立していた。
アユは泣き続け、
子を堕とすことも考えたが、
それをする勇気も湧かず、子を産んだ。
元気な女の子で、シイラと名付けられた。
銀色の髪は、ザンマの遺伝だろうが、
瞳の色まで染められないで良かった。
アユは仕方なく
シイラを王宮で育てることを決め、
その為の相談をザンマに
しようと思っていたのだが、
ザンマはアユからシイラを取り上げ、
近衛兵の養兵場に送ってしまう。
まだ産まれたばかりの、
1歳にも満たない女の子をである。
アユは、朝も昼も夜も、
何の希望もなく泣いていた。
そして、アユが王宮に
連れてこられて2年が経った頃、
転機は突然やってきた。
それは、アユが将来を誓い合った
幼なじみで近衛兵の男だった。
男は自分と同じ境遇の
仲間を数人集め、
アユを助けに来たのだ。
大切な人を奪われた彼らの意志は、
出迎えた王宮の兵を
簡単になぎ倒していき、
アユは男に連れられて
王宮を脱出することができた。
だが、そんなことが起きて
黙っているザンマではない。
すぐに兵を集め、
アユ達の追跡を開始する。
その途中で男の仲間が
殿しんがりを務め、一人、また一人と
命の最後を輝かせていった。
それでも、諦めずに前を向き、
アユと男はそれぞれの家族が
隠れている合流場所に向かう。
が、そこに彼らはおらず、
代わりに一枚の紙を拾う。

『来るな』

そのすぐ後のことだ。
アユと男の所に2人の家族が
ザンマに捕まったと情報が入ったのは。
2人はすぐに走り出し、
処刑台が見える空き家から
2人の家族の首が
はねられる瞬間を見届けた。
最後の最後まで、
アユは何も悪くないと、
そう叫んでいた家族の姿を、
アユは目に焼き付けた。
泣きながら、2人は逃げ続け、
今深慈達がいるこの洞窟に辿り着く。
マーレが、いや、
フィユと名付けられた
青髪と青の瞳の女の子が産まれたのが、
それから1年後のことである。
アユと男は、そこで2人だけの
ささやかな結婚式を挙げようと約束し、
男はどこからか綺麗な
ドレスを持ってきた。
もう、自分達の先は長くないと、
そう感じていた2人は、
アユがドレスに着替えている間に
男がフィユを別の場所に
逃がそうと計画を立てる。
そしてその日のこと。
外が夜になるのを見計らって、
男はフィユを抱えて
近くの国に走っていく。
その国が自分達を苦しめたタアラで、
今もザンマがアユと男を
探しているとも知らずに…。
綺麗なドレスに身を包んだアユは、
帰らない男のことを待ち続け、
やがて、男がいる天国へと
旅立っていったのだった。

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