闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

2人は姉妹

「――」

「っ!?」

彼女の頬に一筋の光が流れる。
それが彼女の涙だと判断するのに
時間がかかってしまったのは、
彼女の涙があまりにも
綺麗に見えたからだ。
彼女は涙を拭うこともせず、
自分の膝の上を濡らしていく。

「皆、こっちに来てくれ」

俺が呼ぶと、
チュニ達はこちらにやってくる。
マーレは不安そうに
シイラの背中にくっつき、
シイラはやや緊張した顔をしている。

「この人、お前らの母親の可能性がある」

本当は、言い切ってもよかった。
この人がお前らの母親だと
断言してあげる選択肢もあった。
だが、よく似ている
全く無関係の人という
可能性もある上に、
彼女が2人の母親だと伝えるのは
俺の役目ではない気がしたのだ。

「私、達……?」

そう疑問を露わにしたのはマーレだ。
マーレは、自分とシイラが
姉妹であることを遠回しに
言われたようなものなので、
まずはそれに驚いているようだ。
シイラの腕にしがみつき、
上目遣いにシイラを見る。
シイラはというと、
薄々勘づいていたのか、
特に何も言うことなく
黙って女性を見ていた。

「深慈君、それでどうするの?」

シイラはかなり抽象的な言葉で
俺に答えを求めてくる。
女性から、視線を逸らさずに。
だが、それだけで俺には
シイラの聞きたいことが伝わる。
この女性を洞窟の外に
連れ出すのかどうか、
あるいは放っておくのか。
極端に言えば、それだけだ。
ただ、その決定の前に
きちんと確かめておく必要がある。

「チュニ、お前は血の繋がりを
調べるとかできるか?」

この女性がシイラとマーレの
母親なのかどうか、
俺は確証が欲しかった。
だから、その望みを
チュニに叶えてもらう。

「…ああ。やれるぜ」

ここにきてもチュニの能力の
便利さには驚くばかりだ。
いつになく真剣な表情を見せ、
チュニはまず、
シイラの額にそっと手を当て、
マーレにも同じことをする。
腕を組み、少し瞑想すると、
チュニは言う。

「間違いねぇな。
この2人は姉妹だ。ただ…」

チュニは歯噛みが悪そうに
何かを言うのを躊躇う。
シイラとマーレの間で
その視線を彷徨わせていると、
シイラは告げた。

「いいよ、チュニ。
この際だから、きちんと教えて」

年相応の落ち着きと
言ってもいいのだろうか。
それとも、決意の表れか。
どちらにしても、
シイラの瞳に揺らぎはない。
そのシイラの気持ちに
チュニは答えようと、
大きく深呼吸をする。

「…父親が違うな。
2人の遺伝子を比べて、
母親が同じことは間違いねぇが、
どうにも一致しねぇ。
髪の毛の色とか瞳の色が違うのは、
父親が違うからだ」

何となく予想はできていたが、
実際にそう言われると
にわかには信じられない。
しかし、チュニが言うなら
そうで間違いないのだろう。

「…そう」

チュニの言葉を、
シイラは自分で飲み込んだ。
シイラの中で、
どんな感情のやりとりがあったのか、
それは俺には分からない。
だが、かなりの不安や葛藤が
渦巻いていたはずだ。

「…?」

未だに不安そうに
シイラにくっ付いているマーレには、
まだ話の内容までは
理解できないだろう。
小首を傾げて、
唇を噛み締めるシイラを見上げる。
心做しか、シイラは拳を握り、
震えているように見える。

「じゃあ、いよいよいくぜ?」

言うが早いか聞くが早いか。
チュニは誰の返事も待たずに
彼女の額に手を伸ばす。

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