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闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝(夢八)

彼女と姉妹

俺が振り返ったところで、
そこには何もなかった。
いや、正確には、
あの女性以外には何もなかった。
女性の視線かと思ったが、
彼女はピクりとも動いていない。
急に後ろを振り返った俺を
チュニ達は訝しげに見つめ、
チュニは首を左右に振る。
女性を警戒させていたチュニが
何も変わったことはないと
暗に語っているのだ。
しかし、一度気になった以上、
このまま無視もできない。

「俺に何かあれば、
お前らは全力で逃げろ。いいな?」

俺は立ち上がり、
齧ったパンを口に放り込む。

「おいおい、正気か?」

自分の主人に向かって
何という口の悪さだ、
と俺は思ったが、
もし立場が逆であったなら、
俺も全く同じ事を言うだろう。
何の情報のない怪しい人物に
自ら近寄ろうとしているのだ。
怖いもの知らずもいいところ、
ヘタをすれば死すら有り得る。
けれど、俺は確かめる以外の選択肢を
選ぶことができなかった。

「深慈君…」

「深慈さん…」

シイラとマーレの
心配そうな声を背中に受け、俺は歩く。
少しずつ、少しずつ、
彼女との距離を縮め、
俺は彼女の紫色の瞳の眼前に立つ。
鮮やかな海を彷彿とさせる
青色の髪の毛を腰まで伸ばし、
真っ白なドレスを纏う姿は、
こうしてすぐ近くで見ると
その美しさが際立つ。
焦点の合ってなさそうな瞳で
石に座っている彼女は、
二度と会えない花婿を
永遠に待ち続けているかのようだ。

「俺は深慈というんだが、
あなたの名前を聞かせてくれないか?」

緊張して少しばかり
声が大きくなってしまったが、
いつもの声で話すよりは
この方がいくらかマシだろう。
しかし、彼女には届かなかったようだ。
瞳が動くこともなく、
髪が揺れることもなく、
唇が震えることもない。

「おーい」

もう少し声を大きくして
俺は呼びかける。
しかし、それでも彼女は
俺のことを気にしない。
俺の存在そのものに
気づいてもいないのだろうか。
今の彼女の瞳には、
一体何が映っているのか。
はたまた、何も映っていないのか。

「聞こえてる?」

彼女の瞳に、
反射した俺が1部だけ映る。
…ん?1部だけ?
俺は顔を近付けて、
彼女の紫色の瞳を覗き込む。
俺の顔がその瞳に映り、
俺が訝しげな表情を
しているのがよく分かる。
そして、俺は彼女の目線から
体を避けて、彼女の見る先を
同じように追ってみる。
そこには、先程の心配そうな態度は
どこに消えてしまったのか、
ベーコンを頬張るチュニと
口の周りにパンくずをつけるマーレ、
それを丁寧に拭いてあげている
シイラの3人の姿がある。

「青色の髪に、紫の瞳…。
あんた、まさか……」

まさか…そんなことが…。
いや、有り得ない話ではないのだ。
何かしらの理由で
離れ離れになってしまった母と娘が、
偶然にも再開することなんて。
確率としては低いのだろうが、
決してゼロではないのだから。
全くクセのない艶やかな髪質、
バランスよく整った目鼻。
今はマーレの髪は着色して
シイラと同じ銀色にしているが、
マーレの元の青色とこの女性の青色は
非常によく似ている。
シイラの紫の瞳とこの女性の紫の瞳も、
非常によく似ている。
というか、同じだ。

「…シイラ・ユハ・タアラとマーレ。
それがあの2人の名前だ。
だが、マーレは孤児だったからな。
俺が名前をつけてやった」

マーレの方はともかくとして、
シイラの名前を聞けば
母親なら気づくはずだ。
俺の見た感覚では
シイラとマーレ、この女性は
血の繋がった親子で間違いない。
初めてマーレと会った時、
俺には確かな違和感があった。
それがマーレの髪を銀に染めた時に
確信へと変わったのだ。
この2人は、姉妹だと。

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