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闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝(夢八)

闇を引っ張った先に

俺は掴んだ黒い手を
暗闇の方へと押し戻す。
が、その力は尋常ではなく、
俺はジリジリと後退する。
さらに、暗闇から伸びる他の手が
俺の肩や足を掴み、出血した。

「クソ野郎…」

痛い、痛い、痛い。
肉がちぎれ、骨が軋む。
俺の血が地面に流れて、
赤く染め上げる。
このままでは、
いずれ俺が力尽きて
こいつらを止めることができなくなる。
そうなる前にシイラ達を
逃がしてやりたいが、
チュニもシイラもマーレも、
立ち上がることさえ
困難な状態にある。
俺達はまんまと罠に嵌ったのだ。
しかし、これはただの人為的な
罠などではなく、
おそらくはこの洞窟の持つ
特殊な天然トラップを利用した
かなり高度な罠だ。
そう思えば、チュニが正体を
突き止められないことにも説明がつく。
だが、仮にこの説が真実だとして、
今の俺には何もできない。
精々、身を呈して
この黒い手を足止めするだけだ。
これもいつまで耐えられるか
分かったものではないし、
1秒1秒毎にチュニ達の
眠気が増しているように見える。

「ゔっ!?」

いつかくると思っていたが、
きてしまったか。
俺の闇が。
俺の心に存在する闇は、
俺の体の支配権を握ろうと
事ある毎にやってくる。
それが、今回もきた。
傷を負った所から、
闇が広がっていき、
あっという間に顔以外が
覆われてしまった。
しかし、慣れたのか、
以前ほどの苦しみを感じない。
別に嬉しくともないのだが、
今は素直に感謝しよう。
これで、俺は戦えるのだから。

「さて、始めるか」

口角がつり上がるのを
俺は自分の肌で自覚した。
確か、ヒガンバと対峙した時も
同じ感覚を味わった気がする。

「――飲み殺してやる』

心の闇と共鳴して、
俺の意識は完全に覚醒する。
暗闇から伸びる黒い手に握力を込めた。
すると、攻撃を受けた蛇のように
急に黒い手が暴れ出し、
その果てにバラバラになって消えた。
俺の肩や足を掴んでいた手も、
力を緩めて俺から距離をとる。
いや、この場合は
俺から離れたのではなく、
俺の闇から離れたと解釈する方が自然か。
黒い手は様子を伺うように
ただ空中を彷徨い、
俺から手を伸ばすと
すぐさま避けてみせる。
どうやら、俺の闇はこの世界の
暗闇が恐れる程らしい。
元の世界では何の役にも立たない所か、
他者から見下される要素の一つでさえ
あった俺の闇だが、
今では強い味方だ。

「――っ!」

しかし、このまま時間が経過するのは、
俺にとっても良くない、
ということを忘れていた。
俺の闇が徐々に俺の体を
蝕み始めてしまったのだ。
慣れたから大丈夫、
とか高を括っていたが、
闇は俺のことを気遣って
そうしてくれたのではない。
俺の体を支配する機会を
ずっと探していたのだ。
俺に似て、こいつも賢い。
いや、この闇も俺自身なのだから、
当たり前といえば当たり前か。
何にせよ、何かしらの手段を
行わなければ、大変なことになる。
しかし、俺に何が出来るのか、
考えても結論は出ないだろう。

「…もう、ヤケクソだっ!」

俺はあれこれ考えるのを止め、
暗闇に向かって突撃する。
黒い手が避けてくれたおかげで
そこにスペースが生まれる。
俺は、手を伸ばして、
――暗闇を掴んだ。
そこに存在する物体として、
排除すべき対象として、
確かに俺は暗闇を掴んだのだ。
そしてそれを、
思い切り引っ張った。
カーテンを広げるような
感覚で暗闇を引っ張り、
その先に俺は目を向ける。
俺の目に映ったのは、
暗闇の中の一人の女性の面影。
はっきりと見えなかったが、
シルエットからして、おそらく女性。
その姿をきちんと捉えようとして、
俺は意識を失ってしまった。

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