闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

手から逃れ、休む

どれだけの距離を
俺達は走ったのだろうか。
途中、何度も石に躓いて、
何度も転びかけながらも、
俺達はあの手から
逃れることに成功した。
振り返っても、あの手の姿はなく、
洞窟がただの暗闇に
なっていることもない。

「…ったく、何だったんだ」

いい感じに背丈のある
石に腰を降ろし、
俺達は一休みする。

「多分、だけど」

俺の独り言に、
シイラは反応してくれた。
シイラは前置きをしてから、
その意見を述べる。

「この洞窟自体が、
大きな罠になっているんだと思う。
魔物が出るっていう噂を流して、
冒険者をおびき寄せる。
そして、入ってきた冒険者に
何かしらの魔法をかけて、
ここから出られなくする。
その冒険者が死ぬのを待ってから、
冒険者の装備を奪う…。
そんなとこじゃないかな」

この洞窟自体が、
何者かによる大きな罠。
という説には俺も賛成だ。
実際、俺もそう考えていた。
だが、それだけで解決されるような
簡単な問題では無い。

「噂を流して、冒険者を誘い寄せる。
それはできそうだが、
魔法の正体は何だ?
あれはただの幻覚じゃなかったし、
変な呻き声も聞こえた。
それに、死ぬのを待つって
割と時間がかかると思うんだが?」

人間というのは、
水無しで3日、水のみで7日は
生き永らえることができるらしい。
洞窟の探索で食料を
全く持ってこないとかいう
バカな野郎なんて
さすがにいないだろうし、
魔法が無効化されるような
可能性だってあるのだ。
たとえこの洞窟が
そういう罠に向いているような
物だとしても、
あまりに効率が悪い。

「チュニ、お前の意見は?」

こういう時も
チュニに聞くに限る。
これがホントの苦しい時の悪魔頼み。

「残念だが、吾にも分からん。
何らかの魔法が
発動しているのは間違いないが、
その魔法の術者の気配が
全然しねぇんだ」

チュニは両手を上げて、
降参のアピールをする。
魔法が発動されているのなら、
その魔法を操っている者が
必ず存在するはずだ。
しかし、その術者の気配を
チュニも感じ取れない。
相手がかなりの実力者なのか、
あるいは何か他の可能性か。
どちらにしても、
俺達が打てる手はない。
地道に歩いて、
ヒントを掴むだけだ。

「そろそろ行くか」

皆の呼吸が落ち着いたのを確認して、
俺は石から立ち上がった。
シイラとマーレもそれに続き、
チュニの光の魔法を先頭に
俺達は再び歩き出す。
その道すがら、
何度もゴーストに出くわし、
マーレが退治する。
そして、体感時間で
2時間ほど歩いたところで、
俺達は洞窟内の広い空間に到着した。
高さは約3m、縦と横がそれぞれ約20m。
少し広い学校の教室くらいの大きさだ。
水溜まりもあり、
なんとなくだが
落ち着いた雰囲気がある。

「ここで休んでいくか」

随分歩いて、
ゴーストとも戦っているので、
特にマーレは疲れているようだ。
俺の提案に皆が賛成し、
できるだけ集まって腰を降ろす。
アイテム袋からパンなどの食料と水筒、
魔力回復用のポーションを取り出し、
それぞれに配る。
この時、何の抵抗もなく
マーレが俺の手からパンを
受け取ってくれたのが嬉しくて、
俺は一人で高揚するのだが、
疲れている様子のマーレを見て、
疲れてるだけか…と少し落ち込む。
それからあまり言葉を交わすことなく、
俺達は十分な休憩をした。
俺が立ち上がり、
大きな伸びをすると、
それを皮切りにして
他の皆も立ち上がる。

「行こうか」

そうして、俺達はまた、
洞窟の中を歩き始めた。

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