闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

暗闇の手

一匹のゴーストを倒してから、
幾度となくゴーストが俺達の前に現れ、
その度にマーレとチュニが
光属性の魔法で退治していた。
俺とチュニの感知能力に
かかることもほぼなく、
大体はマーレが気づいていた。
何もない空間から
音もなく現れるゴーストに、
一体どうやって気づいているのだろうか。

「なぁ、今更な話なんだが、
ゴーストってどういう魔物なんだ?
というか、あれって魔物なのか?」

チュニですら気づかない以上、
もしかしたからゴーストというのは、
魔物という概念に囚われない
何か別の存在ではなかろうかと、
俺はそんなことを考えていた。

「そうだな。厳密に言うと、
ゴーストってのは魔物じゃねぇ。
魂とか、意志とか、絆とか、
そんな形のねぇ概念が
この世の物ならざる者として、
漂っているだけの存在だ」

「ゴーストというのは通常、
誰かの心にあった物が
具現化するんだけど、
具現化した瞬間に何もかも忘れて、
ただ漂い、人を襲うだけになる。
けれど、その心做いゴーストを
操ることができる人が稀にいて、
その人達をネクロマンサーって呼ぶの」

チュニが説明をした後、
シイラが補足をしてくれる。
俺の中の考えは、
結構的を射ていたらしい。
が、だからと言って、
マーレ以外の誰かが
ゴーストの気配に気づく方法が
思いつくわけでもない。
現に、今もマーレがゴーストに気づき、
光属性の魔法で退治している。
が、ここで俺はある違和感を覚える。

「そういえば、ゴーストは
頻繁に出てくるが、
他の魔物が一切出てこねぇな」

そう、遭遇する魔物だ。
ゴーストは魔物ではないらしいが、
敵は敵だし、そこはどうでもいい。
気になるのは、
ゴースト以外の魔物が
一匹たりとも出てこないことだ。
入り口からでも匂いがした
ゴブリンやオーク、ウルフの
姿が全くない。
それどころか、匂いすら感じない。

「皆、一旦ここは退かねぇか?」

今日はもう随分歩いた気がする。
距離も稼いだし、
一本道で罠もないことが
確認できたので、
今日はもういいだろう。
――しかし、現実は
もう取り返しのつかない
事態に陥っていた。

「主、どうにもそれは
できなそうにないぜ」

先頭を歩いていた俺は、
チュニの声で
後ろを振り返える。
チュニがいて、シイラがいて、
マーレがいる。
そして、その後ろには――。

「な…に?」

マーレの後ろには、何もなかった。
そう、何もなかったのだ。
俺達が今まで歩いていた道が、
いや、洞窟そのものが、
完全なる闇となっていた。
俺の驚愕する顔を見て、
シイラとマーレも振り返える。
シイラは一瞬だけ動揺したようだが、
すぐに落ち着きを取り戻す。
マーレはヒッと小さな悲鳴を上げ、
シイラにしがみつく。
いや、やはりシイラも
動揺を隠し切れていない。
マーレからは見えないように、
静かに動揺している。
マーレが、これ以上取り乱さないように。

「ていっ」

俺は近くにあった
手頃な石を拾い、
暗闇に投げ込んでみた。
すると、石は闇の中に消え、
何の音沙汰もなかった。
これがただの幻覚なら
石が地面に落ちる音が
少なからずするはずだが、
それもないとなると、
これは一体何なのだろう。

「チュニ、光の魔法は?」

俺が言うと、
チュニは光る玉を魔法で出して
それを暗闇に放る。
光の玉もまた、
闇の中に吸い込まれていった。
――その時である。

「走れ!」

チュニの声が脳内に響くと同時に、
暗闇の中から無数の
黒い手のような物が伸びてくる。
不気味な呻き声と共に。
俺はシイラの手を掴み、
シイラはマーレの手を掴む。
そして、チュニを先頭に
ただがむしゃらに走った。

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