闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

洞窟探検

洞窟の中は、
外よりも寒く感じる。
いや、実際に気温は
外よりも中の方が確実に低い。
その証拠に、洞窟の壁には
所々に水滴がついている。
気温が低いと、
空気中の水分が蒸発できずに
ああやって液体になるしかない。
と、中学生の時に理科の授業で習った。

「チュニ、魔物は遠いのか?」

魔物がいることは
間違いないはずなのだが、
洞窟に入ってからというもの、
全く魔物に遭遇しない。
今のところ一本道だから
後ろから急に魔物に
襲われるなんてことはなさそうだが、
どうにも不安になってしまう。

「主、すまねぇが、
吾にもよく分かんねぇ。
確かに気配は感じるが、
先に進むにつれて
その感覚が鈍ってきてやがる。
これは、『宝石』が
関係してるのかもしれねぇな」

『宝石』か…。
魔王の6人の幹部にして
一人一人が国を壊滅させる程の
力を持っている存在。
俺達もつい先日、
その『宝石』の一人である
魔物使いのヒガンバに遭遇して、
苦しめられている。
もし、今回の相手もヒガンバなら、
奴の戦闘スタイルも分かっている上に
マーレという援護もあるので、
勝てそうな気もするが、
チュニが言うには
今回はヒガンバではないようだ。
というのも、ヒガンバは
あくまでも魔物を召喚して使役したり、
召喚した魔物に自らが憑依して
戦うスタイルなのだが、
この洞窟にいる魔物の気配は
ただの魔物ではなく、
別の生き物・・・・・の可能性が
あるらしいのだ。
それが何なのかは、
チュニにも分からないようだが。

「嫌な予感しかしねぇな…」

と、俺の予感はその刹那の間に
的中してしまうのだ。

「っ!後ろ!」

先頭を歩く俺の後ろから、
洞窟内に響く声がする。
反射的に振り返り、
俺は青銅棒を構える。
一本道だったはずなのに、
後ろから現れた。
それも、俺とチュニの
感知能力をすり抜けてだ。
その敵とは――。

天の召すままにホーリエル!」

まさに、幽霊。
黒く澱んだ空気を身に纏い、
フラフラフワフワと
空中を漂うそれは、幽霊だ。
声を発するでもなく、
音を発するでもない幽霊は、
手のような物を2本伸ばして、
シイラとマーレを
襲おうとしていた。
マーレの放った魔法は、
眩い白色の光だった。
光は幽霊にまとわりつき、
幽霊を苦しめる。
そして、瞬く間に
幽霊は消えてしまった。
マーレが声を発してから、
ほんの一瞬の出来事。
あれに気づいたのも凄いが、
その後の対応も素晴らしい。
おそらくだが、
ああいう類いの存在に
物理攻撃は効かない。
もっと言えば、
水属性や火属性等の魔法も
効かないのではなかろうか。
何にせよ、マーレのおかげで助かった。

「ありがとう、マーレ。
おかげで命拾いしたよ」

俺がマーレに言うと、
やはりマーレはシイラの後ろに
隠れてチラっと覗くだけだ。
いや、今回は指で丸のマークを
俺に見せてくれた。

「てっきり後ろからは
襲ってこないと思っていたが、
これは警戒が必要だな。
ところで、今の奴は何だったんだ?」

「今のは、ゴーストだな。
幽霊とかお化けとか、
人の負の感情やこの世に対する
強い未練が産んだ、
普通ならかなり厄介な相手だ。
なんせ、光属性の魔法じゃないと
あいつは倒せないからな」

チュニの話を聞く限り、
どうやら俺の仮説は
正しかったようである。
しかし、ここで新たな
疑問が俺の中に生じてしまう。

「普通なら厄介ってことは、
光属性の魔法って
あんまり使える人が少ないのか?」

「光属性の気質なんて、
5万人いたタアラの近衛兵団の中には
一人もいませんでしたよ。
私の知る限りでは、
私の前に団長をやっていた、
カジキさんだけが唯一の
光属性魔法の使い手でした。
まあ、正直言って彼が
団長になれたのは、
光属性が使えていたからでした」

ふむ、なるほど。
これは、もしかしなくても
俺は凄いメンバーを
集めてしまったかもしれない。
光属性の魔法が使えるマーレ、
元近衛兵団長のシイラ、
神の血を引く悪魔のチュニ、
世界最強として恐れられ、
ついには自分の国を創った俺。
俺って凄い奴だったのか。

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