闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

マーレの選択

丸一日ほとんどを
ディフカ文字の勉強に
費やした俺は、
ついにディフカ文字をマスターした。
元から勉強は出来ていたが、
こんなにも早く
習得出来るとは思わなかった。
これも、マーレの応援が
あったからこそだと、俺は思う。
シイラもチュニも
ずっと一緒に教えてくれたし、
色んな人に感謝しなくては。

「出発は明日の朝だ。
で、今日はその準備をする」

俺の文字勉強が終われば、
やっと次の段階に進める。
マーレが酒場で聞いた、
魔物が住んでいるという
洞窟に行って、
魔物を狩ってくる。
どれだけの魔物がいるのかは
実際に確かめてみないと分からないし、
ライオのように
また魔王幹部の『宝石』とやらが
いるかもしれない。
今までたくさんの冒険者が
その洞窟に行って、
誰一人として帰ってきていないと
いう事実を考慮すれば、
きっと、とんでもないような
強さの魔物がいるのだろう。
俺の個人的な意見で言えば、
相手が強い方が燃えるのだが、
自身を鍛える上では
格上と戦う方が効率的だ。
だがしかし、この先のことで
気にしなければならない
大事なことがある。

「…で、その前に聞いて
おきたいんだが…」

そう言って、俺はシイラの
後ろでじっとしている
マーレに目を向けた。
マーレは反射的に身を隠し、
その後ひょこっと顔を覗かせる。
やはり、その姿は
小動物が天敵がいないかを
確認する様子に似ている。

「マーレ、お前はどうする?
一緒に行くには
危険なことが多過ぎるし、
ここで一人で待つのも
いつあの男達が
嗅ぎつけてくるか分からない。
それに、一日やそこらで
帰っても来られないから、
待つのは寂しいと思うぞ」

マーレは、シイラの腕をギュッと握る。
それが痛かったのか、
シイラはマーレの手に
空いている方の手を添えた。
マーレは目を瞑って、
顔をシイラの腰辺りに埋める。
そして、少しの沈黙の後で、
マーレは自分の意志で決断を下す。

「私、も…行きたいです。
連れていってください…」

泣きそうな声で、
いや、泣きているが
それを必死に隠そうとしている。
今の少しの時間で、
マーレの中でどんな葛藤が
繰り広げられていたのか、
俺には見当もつかないが、
思わず涙してしまうほど、
壮大な戦いだったのだろう。
だが、俺は嬉しくなる。
結果として、
マーレは俺達を選んだのだ。
苦悩した戦いの末に、
マーレは俺達と同じ道を
歩くことを選んでくれた。
そのことが、
俺には堪らなく嬉しかった。

「よし、分かった。
マーレのことは、
俺が命を懸けて守ってやろう」

「えっ?深慈君、私は?」

「おい主、お前の使い魔が泣いてるぜ?」

「知らん。お前らは自分の力で
どうにか出来るだろ」

こんな軽口が叩けるのも、
いつまで続くだろうか。
こんなくだらない俺達の会話の横で
笑っているマーレの顔を、
俺はいつまで見届けることが
出来るのだろうか。
マーレのトラウマを克服して、
俺とマーレが目を合わせて
話が出来る日はくるだろうか。
いや、よそう。
未来の話をするのは。
今は、今を全力で生きるんだ。
最終的には魔王を倒して
この世界を救うと言っているが、
今を生きていなければ
そんな未来は訪れない。
俺は、新たに迎えた仲間を
シイラとチュニと同じように
大切にしてやりたい。
だから、俺は皆を失わないように、
もっと強くならなければならない。

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