闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

マーレの情報力

マーレが何らかの
闇を抱えていることは、
直感的にすぐ分かった。
俺が闇の力を
いくらか操れるようになったからか、
元からそういうことを
見抜くのが出来ていたのか、
理由はさっぱりだが、
少女の、マーレの瞳を見た時、
奥の方が淀んで見えた。
綺麗な海色の瞳の奥に、
暗く淀んだ闇の世界。
海という意味の名前を
マーレにつけたのも、
その瞳を見た時に
頭に浮かんだからだった。
マーレが俺の意図に
気づくとは思えないが、
もし、マーレが俺の意図に気づき、

「私の心が淀んでると思ってるとか、
あなたは最低な人ね!」

とか言われたら、
俺は多分、いや確実に死ぬな。
だが、俺が思うに、
マーレは俺の意図に気づいている。
気づいていて、
あえて言わないようにしている。
俺がマーレに海みたいだ、
と言った時に、
マーレは僅かに動揺した。
少しの動揺も、
俺は見逃さなかった。
しかし、それでもマーレは
俺がつけた名前を受け入れ、
俺達に協力してくれると言ってくれた。
実際には、言葉で伝えて
くれた訳ではないが、
あのOKサインは
肯定の証と受け取っても
何も問題はないだろう。
現に今、マーレは俺達に
その業を見せてくれようとしている。

「――――」

「――――」

「――――」

俺達は今、タアラの酒場の一角で、
必死に耳を澄ませている。
しかし、聞こえるのは、
忙しない足音や、
食器が奏でるカチャカチャ音、
ワイワイと酒盛りをする
冒険者達の賑やかな声。
誰かと誰かが会話をしているのは
間違いなく聞こえるのだが、
その内容までを
聞き取ることは出来ない。
離れた部屋の
シンガルの王とメイドの会話を
盗み聞きした経験のある俺でさえ、
聞き取ることが出来ないのだから、
シイラとチュニが
いくら耳を研ぎ澄ませたところで
得る物などないだろう。
だが、情報屋をやっている
マーレの耳には、
確かに情報が届いているようだ。

「このタアラの冒険者ギルドで、
近くの洞窟に魔物が住み着いているので
それを討伐してくれ、
という依頼があるみたいです」

見を澄ますこと数分で、
マーレは耳寄りの情報を
手に入れてくれた。
マーレはすぐに
テーブルにタアラ周辺の地図を広げ、
正体を隠す為のフードを
邪魔くさそうにしながらも、
細く小さな指で指す。

「場所はこの辺りで、
依頼自体は割と前から
あるそうなのですけど、
依頼を受けた冒険者は
誰一人として
帰ってきていないそうです」

マーレが指した場所は、
ここからそう離れていない
山の近くの一箇所だった。
馬車で行けば、
半日もかからないだろう。

「…どうされますか?」

マーレが小さな声で
そう聞いてくるが、
マーレの瞳は俺ではなく、
シイラに向いていた。
本当はマーレ自身も
一応リーダーである俺に
聞きたいのだろうが、
男に対してトラウマを抱えている
マーレには、それが難しい。
もし仮に、そんなの関係なしに
俺が嫌われているだけなら、
それはそれで悲しくなるが。
あぁ、マズイ。
おじさん、泣けてきたよ。
しかし、文字通りの
泣き言を言っている暇はない。
俺は目元を左手で隠し、
空いている右手で
グーサインをシイラに送る。

「うん、行こう」

シイラがマーレに言うと、
マーレの顔が明るくなる。
単に冒険に行くのが
楽しみなだけなのか、
自分の力で皆の役に立てたのが
嬉しかったのか、
理由は様々考えられるが、
マーレの笑顔を見れただけで
今日の俺は満足だ。
次はその笑顔が、
俺に向けてもらえるように
頑張っていかないとな。

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