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闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝(夢八)

少女の名前

少女が目を覚ましたのは、
もう陽が傾き始めている頃の
いわゆる夕暮れ時だった。
一緒に寝たシイラとチュニは
とっくに起きていて、
パンの争奪戦をしていた。

「やっと起きたか」

俺は起きたばかりの少女に
水とパンを差し出す。
最初は戸惑っていた少女だったが、
今後は迷うことなく
きちんと両手で受け取る。

「結構な時間寝ていたな。
最近寝てないのか?」

少女は肯定も否定もせず、
ただ小さな口で
パンを咀嚼している。
寝足りないのか、
まだ完全に覚醒していないような
虚ろな目をしている。
俺は少女が食べ終わるのを待ち、
単刀直入に聞いてみることにした。

「君の名前は何だ?」

「…メ――」

「ん?」

私は名前を言いかけて、止めた。
私にはメシーナという
孤児の仲間達から
つけてもらった名前があるけど、
彼に教えるのは
何だか気が進まなかった。
名前を打ち明けることで、
私を追いかけてきた
男達に居場所がバレてしまう
可能性もあるし、
何より私はこの人達を
信用している訳でもないから。

「名前は…ないの。
私、孤児だから――」

名前がないというのは嘘だけど、
孤児、というのは本当のこと。
私のみてくれを見て、
嘘だとは思わないはずだ。
こんなボロ雑巾のような
布の格好をしている私を――。

「えっ?」

「ん?」

私の服装は、街の裏路地で拾った
汚れたカーテンや服を
雑に縫い合わせただけの
酷い見た目のものだった。
でも、今は女の子らしい
可愛いデザインの服になっている。
白を基調としているワンピースに、
私の髪の色と同じ水色のスカート。

「ああ、服か。
君の着てたあれは
街だと逆に目立つから、
シイラに見繕ってもらって、
着替えもシイラがやったぞ」

そ、そんなことしてくれたの?
見ず知らずの私の為に?
それとも、汚い格好の子が
そばにいたら自分の
評価も下がると思ったから?

「ちなみに俺は着替えの間、
ずっと部屋の外にいた。
俺は何も見てないからな」

私は、胸の奥が痛くなる。
この人達は私の為に
色々なことをしてくれる。
食べ物もくれるし、
こんなに可愛い服もくれた。
そんな人達に、
私は嘘をついてしまった。
でも、いいかな。
こんなにも優しい人達を
私の不幸に巻き込んだら、
それこそ私は嫌になる。
嘘はついてしまったけど、
これでこの人達が
私から離れてくれるなら、
私はそれ以上は望まない。
――でも、私はこの人達と一緒に
少しでいいから生きてみたいな。
お気に入りのパンを取り合って、
同じ宿の部屋で寝て、
同じ世界を共有して、
そうして生きていけたら、
どれほど楽しいのだろう。
今の私の生き方は、
常に危険と隣り合わせで、
最後に笑ったのなんて覚えていない。
でも、この人達がいれば、
いつでも笑っていられそう。

「…それで、君の名前は?」

彼は真面目そうな表情で、
もう一度私に聞いてきた。
名前はないと言ったのに、
彼は聞いてきた。
私が嘘をついていると
思っているのだろうか。
しかし、一度ついた嘘を
なかったことにはできないし、
何より私は、孤児として育ち、
情報屋をやっている『メシーナ』
ではなく、全く別の人間として
生きていきたかった。

「言ったでしょ。
孤児だから名前なんてないの」

だから、もう一度嘘をついた。
決して彼を騙そうとか、
利用してやろうとか、
悪意がある訳ではない。
私が私らしく生きる為に、
必要なことだと思うから。

「でも、名前がないのは不便よね。
深慈君、つけてあげたら?」

私も、それがいいと思う。
というか、彼なら私に
どんな名前をつけるのか、
少し気になる。

「まぁ、孤児ってのは本当だろうし、
名前はあった方がいいよな」

彼の名前は深慈というのか。
今までの彼らの会話から、
女性の名前がシイラで、
あの悪魔みたいな子がチュニ、
という名前だとは分かっていたけど、
そうか、この人は深慈というのか。
深慈さんはムンムンと
頭を捻り始めて、
私につける名前を
考えているようだ。
そんなに一生懸命考えなくても、
安易な名前で十分なのに。

「よし、決めたぜ」

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