闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

深慈の学校 3

クラスメイトが
俺のことを理解しようとしてくれたが、
俺は結局のところ、
彼らとの距離を
埋められなかった。
理由はよく分からない。
ただ、今さら幸せになろうなんざ、
虫が良すぎんじゃないのか?
と心の底で誰かが言った。
俺は相変わらず無愛想に
返事をするだけの
人形のようになっていた。
淡々と時が過ぎていき、
進路はどうするのかと
担任に聞かれた。

「私はね、あそこかな」

そこで気になったのが、
藤井さんの行く高校だった。
藤井さんの家から近い高校で、
それなりに偏差値の高い
県内で人気の商業高校だ。
俺の家からも近く、
俺はこれを逃す手はないと思った。
今の俺に、藤井さんの
いない学校など考えられない。
たとえ偏差値が高くても、
無理をしてでも、
その高校を目指すべきだ。
そう思い、俺は長らく
開いていなかった教科書を開いた。
幸い、あの日までに習った内容は
ほとんど覚えていたので、
それからの約一年分の勉強を
俺は追うことにした。
しかし、勉強は思うように進まず、
最終的には藤井さんと同じ高校の
試験を受けることすら、
担任の先生に許してもらえなかった。
それも当然といえば当然の話だ。
成績の数字も足りなければ、
出席日数も足りず、
また、志望動機も
『好きな人がいるから』
では納得されないだろう。
いくら俺に事情があるとはいえ、
許容範囲というものがあるのだ。

「バイバイ、みんな」

藤井さんと同じ高校に
行くことは叶わず、
俺は担任の先生が
色々なところに声をかけて、
やっと、俺のような者でも
受け入れてくれるという
高校を見つけてくれたおかげで
その高校に行くことにした。

「お前、何なの?」

だが、この高校は
藤井さんもいなければ、
俺のような闇を抱えた者を
理解できるような者もいなかった。
先生も俺の事情を知る先生は少なく、
俺はますます追い込まれた。
勉強する気力もあるはずがなく、
俺は入学して二週間で
学校を退学することにした。
もちろん、事情を知る先生や
家政婦の服部さんには
もう少し頑張ろう、とか
そんな中身のないことを
散々聞かされたが、
無視して退学を決め込んだ。
そのあとは、
妹の愛咲に悟られないように
毎日のように図書館に出かけ、
外で時間を潰していた。
そんな同じ毎日を過ごし、
クズの日々を送っていた俺が
転機に見舞われたのは、
言うまでもなく、
この世界に召喚されてからだ。
突然迷い込んで、
勝手に品定めされて、
勇者の烙印を押されたかと思ったら
お前はいらないと言われ、
同じ立場であるはずの
仲間に氷漬けにされ、
地下牢に放り込まれて 、
ミシリディアに出会って、
チュニに出会って、
シイラに出会って、
必要とされて、期待されて、
自らの体を危うくしてでも
仲間の為に戦って、
ついには魔王さえ追い返した。
追い返したというには
少しばかり見栄を張り過ぎているが、
結果としてそうなった以上、
バチは当たるまい。
これからは、世界のため、
仲間のため、ミシリディアのために
俺は闇とともに戦うんだ。

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