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闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝(夢八)

深慈の学校

両親を失い、
勉強とかそれどころの
話をしていられなくなり、
俺は毎日を怠惰として過ごしていた。
学校にも週に一度行くか行かないかの
間隔でしか行かず、
授業中は教科書もノートも
開かぬままにボーっとしていた。
その俺が中学を卒業できたのは、
ある女の子のおかげと
言っても過言ではない。

「おはよう、千夜君」

サラッと流れるショートの黒髪に
健康そうな色の茶色の肌。
小さな目と鼻が付いている顔は
幼さが残り、
笑った時に浮き出る頬骨が
とても印象的であった。

「…おぉ」

俺がこんな感じ悪そうな挨拶を返しても、
彼女は気にせずに
他のクラスメイトに声をかける。
誰に対しても明るく、
彼女の口から人の悪口なんか
聞いた試しがない。
勉強の成績も良く、
いつも学年でトップクラスの
順位を維持しており、
テスト週間になると
決まって誰かに勉強を教えている。
面倒見がいい証拠だ。
部活も吹奏楽部に所属していて、
部長さながらのリーダーシップで、
部員を引っ張っているらしい。

「藤井さん、号令」

「はいっ!」

朝礼のチャイムが鳴り、
担任の先生がやってくる。
出席簿を片手にクラスを見渡すと、
藤井さんに声をかける。
藤井さんはこのクラスの学級委員で、
返事をする時の笑顔で
頬骨が浮き出ている。
そう、先からずっと
俺が目で追っているのが
藤井さんである。

「起立、気をつけ。礼」

「「「おはようございます」」」

「着席」

クラス全体での挨拶が済むと、
担任の先生が今日の連絡事項を
淡々と述べる。
今日は外から人が来るから、
廊下ですれ違ったら
挨拶をするようにとか、
それに関係して
今日はどの部活動も禁止だとか、
その程度のことだ。
あとは、今日も一日頑張ろう、
みたいなことを言うだけ。
朝礼が終わり、
授業が始まるまでは
10分の休み時間がある。
その時間で教室を移動したり、
体操服に着替えたり、
ただただ友達と話をしたり、
終わっていない宿題をしたり。
このクラスの授業は数学のため、
移動とか着替えは必要ないので
友達と喋っている者が大半だ。
そんな中、俺は一人で
もうこの世にいない両親の顔を
窓の向こうの空に浮かべる。
俺の両親が亡くなったという話は、
俺が学校を休んでいた時に
担任からクラスへ伝わり、
また全校集会では
校長から生徒先生全員に
俺の名前を伏せた上で伝えたらしい。
京都で男が暴れ、
人が亡くなったというニュースも
テレビで連日放送され、
新聞の見出しも飾っていた。
当の本人からすれば、
こんな暗いニュースを
何度も報じるなと思うが、
アナウンサーやキャスターの人は
根掘り葉掘り聞いてくる割に
配慮の欠片もない。
だから、後半は取材も全て断り、
テレビはつけずに、新聞も解約し、
あの事件のことから
目を逸らせようとした。
その俺の心中を察してか、
学校を休みがちになった俺に
話しかけてくる奴は消え、
次第に俺とクラスメイトの距離は
どんどんと離れていった。

「千夜君、次の授業、理科室だよ」

しかし、藤井さんだけは違った。
いつの間にか終わっていた数学の次は、
理科室への移動教室だったのだが、
それをわざわざ俺に
教えてくれたのは
藤井さん一人だけだった。
藤井さんは、気を遣って
話しかけないように
するのではなく、
『いつも通り』に接してくれた。
その時の藤井さんの笑顔が、
今も忘れられない。
その笑顔がなければ、
俺はとっくの前に心が折れて、
自ら命を絶っていだろう。
そうすれば、
妹の愛咲が独りで取り残されることを
考えることもせずに。
感謝しているというだけでは、
とても言い表せない。
いや、冷静になって考えれば、
きっと俺は藤井さんに
惹かれていたのだろうと思う。
明るくて無邪気な笑顔、
勉強もできて、率先力もあり、
誰にでも優しい。
その優しさが、
俺だけではなく、
どんな人にでも向けられたものであると、
理解はしているつもりだが、
俺は気づけば
あの優しさを求めていた。
学校に何度か足を運んだのも、
藤井さんのあの優しさに
触れたかったからだった。
特に意識していなくても、
ふと藤井さんの優しさに、
いや、藤井さんに会いたいと
心のどこかで思っていたのだ。

「おはよう、千夜君」

俺が学校に行った回数は、
はっきり言って覚えていない。
きっと30回くらいしか
行っていないと思うが、
一つ確かなのは、
俺が学校に行った回数と同じだけ、
藤井さんが俺におはよう、と
言ってくれたということだ。

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