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闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝(夢八)

戦いの終わり

ヒガンバは最初、
何が起こったのか
理解できないようだったが、
目の前にいる男を見て
全てを悟ったようだ。

「これはこれは魔王様。
今宵は人の男ですか」

地面に片膝をつき、
ヒガンバは丁寧に言った。
その声はとても落ち着いていて、
先まで悲鳴を上げていた
ヒガンバとは別人のように感じる。
そして、ヒガンバは
とんでもないことを口にした。
あの長身の男、
俺が倒さなければならない
諸悪の根源――魔王。
かつての勇者に封印されるも、
マーガイナとかいう国が復活させ、
世界を魔物で埋め尽くほどの
強大な力を持った存在。

「強がるな。
今も腕が痛むんだろう」

男、いや、魔王は
冷たい口調でそう言う。
ヒガンバはスっと
片腕を後ろに隠し、
汗の流れる頬に
笑みを浮かべていた。

「この程度の傷、
何も問題ありません」

ヒガンバはあくまでも
問題ないと言い張る腹積もりだ。
しかし、魔王は許さない。
場の空気が一気に重くなるのを、
俺は顔の肌で感じる。

「黙って今日は戻れ。
その傷はお前では癒せん」

「…仰せのままに」

諦めたヒガンバは
弱々しく呟き、
静かに立ち上がると、
戦闘の間置き去りにされていた
水晶玉に手を伸ばし、
優しく胸に抱く。
ヒガンバは最後に
俺に向かってウインクすると、
黒いモヤに包まれて
その姿を消した。

「…ヒガンバを追い詰めるとはな、
いい実力の持ち主だろう。
俺はお前を敵として見定める。
…せいぜい俺に辿り着いてみろ」

魔王は、暗い空を見上げ、
感慨深くそう言うと、
ヒガンバと同じように
黒いモヤに包まれて消えた。
さらに、驚くべきことに、
俺の体を侵食していた
闇の力が綺麗さっぱり
消えているのだ。
手をグーパーしてみても
何の違和感もなく、
もはや体が軽く感じてしまうほどだ。

「あいつらはっ!?」

自分のことに安堵している
場合ではない。
いや、自分のことも大事なのだが、
それ以上に大切に
しなければならないことがある。

「…スースー……」

しかし、俺の心配は杞憂に終わる。
シイラ達は安らかな
寝息をたてながら、
静かに眠っていた。
シイラの頬を指でつついて
終わったぞ、と声を掛けても、
シイラはむにゃむにゃ言うだけで
起きる気配が全くない。
チュニもドワーフ達も同様で、
体を揺さぶってみたり、
脇をくすぐってみたりしたが、
全て無駄に終わった。

「…みんな、ありがとうな」

皆が起きないことを
フルに活用して、
俺はそっとお礼を言う。
普段彼らが起きている時には
絶対に言わないであろうセリフだ。
しかし、言えるうちに
言っておかないと後悔するだろう。
俺は元の世界で
両親や妹に感謝など
言ったことがない。
幼く、無邪気だった頃は
言っていたかもしれないが、
そんな時の記憶はないから、
言ったことにカウントしない。
そして、今、俺は彼らに感謝している。
チュニのおかげで
地下牢から脱出できたし、
シイラのおかげで
守ることの意味を知り、
ヤガラのおかげで
道に迷わなくて済んだし、
職人ドワーフの装備のおかげで
魔物やヒガンバと戦うことができた。
だから、彼らには感謝している。
だから、心から言うことができる。
――ありがとう、と。

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