闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

ヒガンバとの戦闘

唸りを上げて迫る鉄球を、
トゲのない所を狙って
横に蹴りつける。
強引に鉄球を逸らし、
次が来る前に距離を詰める。
ヒガンバの腹めがけて
拳を振るうも、
ヒガンバもただではやらせない。
空いている方の手で
俺の顔面を殴りにくる。
それを体を沈めて躱し、
ヒガンバの脛を足のつま先で蹴る。
人間が相手なら
これで悶絶ものなのだが、
ヒガンバは怯まない。
鉄球が繋がっている鎖で
俺を弾き飛ばし、
戻した鉄球で追撃してくる。
今度は無理に鉄球を逸らさずに、
ただ横に避けてから
回し蹴りで後ろにさらに勢いをつける。
これで少しは時間が稼げるだろう。
また一気に距離を縮め、
素早い動きでヒガンバの後ろに回る。
ヒガンバが振り向いたタイミングで
ヒガンバの股下を潜って
もう一度ヒガンバの後ろに回り、
ヒガンバの頭上に跳躍する。
一瞬だけ俺を完全に見失ったヒガンバの
後頭部に狙いを定め、
足の甲で蹴りをいれる。
死角からの攻撃、
それもかなりの威力。
さすがのヒガンバも
よろけるくらいするかと思ったが、
ヒガンバは踏ん張って耐え、
未だに空中に留まっている俺に
カウンターの拳をぶつける。
俺は空中で耐えられるはずもなく、
脇腹に鈍痛が走る。
が、俺も俺とて、
ただでやられてやる訳がない。
突き出されたヒガンバの腕を掴み、
右手の指を揃えて、手刀を作る。
そして、それを掴んだヒガンバの腕に
勢いよく突き刺した。

「っ!?いやぁぁぁ!?」

ここにきて初めて、
俺はヒガンバの悲鳴を聞いた。
ヒガンバは急いで俺を
強引に振り払うと、
傷を押さえて悶える。
いくら鬼神の体で
肉体が強いからといって、
傷は負うし、痛みも感じるようだ。
ヒガンバが悶え苦しむ一方で、
俺の方も体が限界を迎えていた。
立ったまま、
身動きが取れなくなっているのだ。
動くのは首から上だけで、
四肢が全く動かない。
おそらくだが、
今までは体の表面しか
闇が及んでいなかったが、
戦いで酷使している際に
体の芯まで闇が侵食している。
再び動けるようになるまでは
しばらく時間がかかりそうだが、
それはヒガンバも同じこと。
痛い痛いと喚き散らし、
俺のことなど眼中にないようだ。
しかし、トドメを刺しに
シイラ達を動かせば、
それに気づいて
大暴れするかもしれない。
やはり、ここは意地でも
俺がやるしかない…のだが、
体がピクリとも動かない。

「――哀れだな」

不意にそこに現れたのは、
俺には見覚えのない男だった。
男はヒガンバに近づくと、
その頬に平手を打つ。
すると、鬼神の体から、
赤色の液体に塗れた
ヒガンバがドロりと出てきた。

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