闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

愛と闇

シイラの心の底に溜まっていた、
親に対する鬱憤の数々。
自分のことを
言われている訳ではないのに、
確かに俺の心に重なっていく。
本当は、俺もシイラの親と同じように
救いようのない、
底辺の人間ではないのか。
そう思えてくる。

「怠惰、小心者、傲慢、
寒がり、潔癖症、綺麗好き、
トマト嫌い、世話焼き、
心配性、働き過ぎ、大きな背中、
優しい声音、乾燥肌…」

シイラの罵倒は、
いつしかそうではなくなっていた。
涙を流しながら、
ポツリポツリと思い出を
噛み締めるように、
シイラは両親のことを語る。
止められない嗚咽の中で、
しっかりと言葉で表す。
それらは、今までの罵倒よりも、
遥かに大きく俺の心を揺さぶる。

「お父様、お母様…」

自分の目の前で両親を
殺された俺とは違い、
シイラは自分の愛する両親に
拒絶され、見放されたのだ。
その時の絶望の大きさは
俺には想像もできないが、
相当なショックだったはずだ。
しかし、今もなおシイラは
両親のことを愛し、
思い出すだけで涙が零れる。
愛の力とは、
こうも偉大なものだったのか。
俺の闇とは正反対だな。
それでも、愛を欲したいと願うのは、
俺は傲慢なのだろうか。

『――お前の闇に、愛などない』

急に、胸が痛む。
鼓動が早くなり、息も上がってくる。
苦しくて、吐き気がする。
しかし、俺はこれを待っていた。
登場の仕方までは
予想出来なかったが、
誰かの『愛』に対抗して
俺の『闇』が目を覚ますのではと、
俺は思っていたのだ。
確証なんてない。
ただ、『闇』は全てを飲み込んで
支配する力だ。
相反する『愛』という勢力が
出てきた場合、真っ先に
潰しにかかるはず。

『――愛――――!』

『――殺す――――!』

『――全て飲み殺せ――――!』

『――愛など――――いらぬ!』

おぞましい憎悪の塊が
俺の心を支配していく。
次第に自我が薄くなり、
手足の感覚もあやふやになる。
このまま闇に支配を許せば、
俺は残虐な殺人鬼になるだろう。
自らの手を仲間の血で汚し、
やがて朽ちてなくなる。
だが、そう簡単に俺をやらせはしない。
果てしなく醜い未来を目指すために、
俺は闇を引き出した訳ではないのだから。
今もドワーフ達が命懸けで
ヒガンバを止めてくれている。
シイラもチュニも、
両腕を失ったヤガラさえもが、
俺に全てを賭けている。

「上等だぁ…」

締め付けるような痛みが、
胸を通じて脳に届く。
一瞬でも気を抜けば、
痛みと共に俺は俺でなくなる。
だが、負けない。
ミシリディアが覚醒させてくれた力で、
この世界を救うと誓ったのだ。

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