闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

美人に罵られる

俺の考えた作戦は簡単だ。
俺の闇の力は
俺一人だけでは発現できない。
誰かから攻撃を受け、
その傷から俺の体の支配権を
奪おうとする闇は、
攻撃を受けることが前提である。
しかし、俺は思った。
別に殴られたり
剣で切られたりしなくとも、
闇の力を発現させることが
できるのではないか。
闇は、俺の心の中にある。
言ってしまえば感情なのだ。
それなら、体を傷つけずに
心を傷つければ、
痛くないし万事解決なのでは、と。

「えぇぇっ!?」

「さぁ、早く。
俺のことを罵ってくれ!」

シイラは困惑し、
今こいつは何を言ってるんだと
いう表情で俺を見ている。
当然だろう。
いきなり自分のことを
罵ってくれと言われたら、
誰でもシイラと同じ反応をする。
しかし、今は分かってもらいたい。
シイラに罵倒され、蔑まれるだけで、
俺はパワーアップできるんだ!
いや、変な意味はないよ。
目の前の強敵を倒すのに
必要なことだよ。

「いいから早く!」

シイラは迷う。
相手は仮にも自分のことを
救ってくれた恩人だ。
いくらその人に頼まれたからといって、
恩人を罵るなんて
したくないはずだ。
だが、迷っている時間もない。
グズグズしていては
ヒガンバを食い止めている
ドワーフ達が殺されてしまう。
決断するしかない。
この戦いが終わったら、
全力で謝ろう。
と、シイラは決意する。

「バカ!アホ!ドジ!」

そんな小学生みたいな悪口で
闇は現れたりしない。
もっと心の奥に響く
重い言葉じゃないと。

「もっと心にくるやつを頼む!」

「えぇぇ…」

今度こそ、シイラは泣きそうになる。
シイラの中で、
今のが全力の罵倒だったらしい。
シイラがどうすればいいのか
必死に困惑していると、
チュニからアドバイスが届く。

「お前の親に言ってやりたいことを
そのまま言ってしまえば?」

親という単語が出ると、
シイラは急に表情を暗くする。
シイラにとって、
親というのは地雷も同然だ。
だから失敗かと思ったが、
チュニのアドバイスは
以外にも吉と出る。

「…嘘つき」

シイラの口から出た言葉は、
先ほどまでとは比べ物にならないくらい
重々しく俺の心にのしかかる。
シイラに嘘をついた覚えはない。
しかし、言われてしまうと
本当に俺が嘘をついたような
理不尽な錯覚に陥る。

「偽善者、臆病者」

言葉の一つ一つが重い。
重圧で俺の心が潰れてしまいそうだ。
きっと、この重さは、
シイラが親に、王に捧げていた
信頼の重さなのだろう。
そう考えると、
罪悪感も溢れてくる。

「裏切り者、薄情者、愚か者、
怠け者、傍観者、脆弱者、
弱虫、負け犬、偽物」

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