闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

ヒガンバとの戦闘

薄暗い闇の中、
男の声はなぜかよく響く。

「ヒガンバはどこだ」

空気が重く、
思うように身動きがとれない。
変な汗が頬を伝い、
呼吸すらままならない。

「あっちの出口だ」

シイラやドワーフ達は
苦しくて言葉も発せないのに、
チュニは平気そうに
男に教えてあげていた。
ヒガンバのいる所はつまり、
深慈がいる所でもある。
深慈がヒガンバを倒すことに
ここにいる誰もが
期待しているのに、
チュニは嘘もつかない。

「そうか」

男は多分、上を見上げた。
何となくだが、
影の動きがそう見えた。
男は小さくため息を吐くと、
ブツブツと独り言を言う。
そして、背中を向けると、
こう言った。

「てめぇらの力、見せてみろ」

男の姿は、それから音もなく消えた。
いつの間にか呼吸は整い、
すっかり動けるようになっていた。
あの男は一体何者なのか、
当然疑問に思うが、
それよりもまず
優先すべきことがある。

「深慈君を追いかけないと!」

シイラの言葉にハッとして、
ドワーフ達は立ち上がる。
急いで出口を目指し、
深慈のあとを追おうとするのだが、
チュニだけが
その場に留まっている。
まるで、魂が抜け落ちたような
佇まいでいるチュニは、
先ほどまでの威勢は
どこにいってしまったのか。

「チュニも早く!」

シイラが呼びかけると、
チュニはゆっくりとついてくる。
本当にどうしたというのか。
いつもの明るく無邪気なチュニは、
今や抜け殻と遜色ない。
シイラはチュニの手をひっ掴み、
長い長い螺旋階段を
駆け足で登っていく。
上に近づくに連れて、
チュニは徐々にいつもの調子を取り戻し、
登りきる頃には
いつもの表情に戻っていた。



「数が増えても、
何も変わりはしませんよ?」

依然として鉄球を奮うヒガンバ。
ドワーフの魔法を受けても、
シイラが細剣を突き立てても、
ダメージを与えられているという
実感が少しもない。
少し休んでから
俺を追いかけてきたようだが、
魔物と戦った時の疲労が
癒えた訳ではあるまい。
しかし、シイラ達が来てくれたおかげで
僅かに時間ができた。
助けてもらうだけでは
勇者とは呼べない。
俺が、この戦いを勝利に導くんだ。

「ドワーフとチュニ!
少しだけ時間を稼いでくれ!」

最前線で鉄球を弾いていたシイラを
一旦後ろに引っ込ませて、
ドワーフ達とチュニに
ヒガンバの相手を任せる。
了解!
任せろ!と、ドワーフ達は
急な指示でも嫌な顔一つせず、
危険な前線に出る。
彼らが命を落とさないうちに、
俺はやらなければならない。

「深慈君、どうするの?」

耳元でシイラが囁く。
本当は誰でもいいのだが、
なんとなく絵面的に
シイラを選んだ。
いや、この作戦を決行するにあたって、
男なら誰でも
シイラという選択をするはずだ。

「シイラ、俺のことを罵ってくれ」

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