闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

期待と覚悟

「どうしたの?
この程度が全力?」

鬼神の圧倒的な力、
それを知性の高い人間が操れば、
実質世界最強だ。
悔しいが、ヒガンバの言ったことを
認める他ない。
しかし、認めたところで
ヒガンバが攻撃を
止めることはない。
うねり声を上げながら、
鎖に繋がれたトゲ鉄球が
容赦なく襲いかかり、
それを剣を使い根性で横に逸らす。
金属がぶつかり合う甲高い音が響き、
俺の腕も悲鳴を上げる。
だんだんと握力が落ち、
このままではジリ貧でやられてしまう。
何か、何か打開策を見つけないと。

「ほらほら~」

生きつく間に次々と鉄球が迫り、
頭を動かす暇がない。
闇の力を使おうにも、
まだ自分の力だけで
制御出来る代物ではない。
いっその事、わざと一発受けて、
闇の力を強制解放してみるか?
――剣が軋む音がする。
いや、当たり所が悪ければ、
即死しかねない。
それでは何の意味もない。
――握力も、もう限界だ。
それなら、相打ち覚悟で
突っ込んでみるか?
間合いが近い方が、
俺にとっては有利になる。
――腕が痺れてきている。
いや、それもダメだ。
あの鬼神の強靭な肉体を
俺の力で切れる気がしない。
くそっ、どうすれば…。
――剣が根元から折れた。

「さようなら。影の勇者」

眼前に迫る鉄球。
それを凌ぐ武器はもうない。
避けようにも、もう遅い。
俺の頭が弾け飛び、
首から下が力なく
倒れる貢献が容易に想像できる。
ああ、これで終わりか。
最強の勇者になって、
世界を救うなんて
大口叩いたけど、
所詮心に闇を抱えた人間が
背伸びしたところで、
何も出来はしなかった。
ごめんな。チュニ、シイラ。
ヤガラと職人ドワーフ達も。
ヒガンバ倒すって言ったけど、
俺には無理だったよ。
お前らは、俺の期待通りに
魔物を倒すと思うけど、
ちゃんと俺のこと追いかけて、
俺の亡骸を海の見える山とかに
埋葬しておいてくれ。
頼んだぞ、シイラ。
――シイラ?

「どっせぇぇぇい!!」

カーンと金属が弾かれる音がして、
俺を狙った鉄球は
俺の顔の上を通り過ぎた。

「深慈君!しっかりしなさい!」

気づけば、
俺の目の前には
シイラの背中があった。
女性らしい美しいシルエット。
その小さな背中が、
今はとても大きく見える。
シイラだけではない。
チュニもヤガラも職人達も、
皆が俺の近くに
集まってきている。

「主、諦めるのはまだ早いぜ?」

チュニだ。俺の知るチュニだ。
間違いない。この軽い口の聞き方は
俺のチュニである他に何でもない。

「儂らも手伝おうぞ」

「僕も、頑張ります」

職人達はまた石を持ち、
両腕のないヤガラさえも
俺の隣りにいる。
今になって、自分が恥ずかしくなる。
こいつもとっくに
限界を迎えているはずだ。
しかし、誰一人も諦めることなく、
生きようとしている。
俺がこいつらに期待したことを、
こいつらは全力で応えた。
それなら今度は、
俺がこいつらの期待に応える番だ。
――今に見ていろ。
顔も知らねぇ魔王様よ。
お前の大事な宝石が一つ、
ここで壊れるぜ。

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