闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

螺旋階段を飛ぶ

俺はシイラ達に
ここの魔物を任せて、
ヒガンバを追うことにした。
ドワーフの魔力が
いつまで続くのかさえ
考えてやることもなく、
一方的に指示を飛ばす。

「シイラはヤガラの手当てを、
職人のあんた達は二人を守れ。
で、チュニは俺の道を切り開け」

かなり一方的で、
しかも命令口調になっていたが、
誰一人として文句を言わず、
俺に強く頷いてみせる。
本当に、頼れる仲間がいるって
幸せなことだよな。

「神の血が流れる悪魔の名で願う。
忌まわしき魔物を蹴散らし、
わが主の道を明け渡して
今度こそ褒めてもらうのだ。
暴風魔ゴッドテンペスト!」

チュニが放った
魔のオーラを纏った風が
俺の前方にいた魔物を吹き飛ばし、
海を二つに割ったように
道ができていた。
もしかして、チュニ一人だけで
ここの魔物倒せるんじゃね?
と思ったが、そんなことをすれば
シイラ達も無事では済まないし、
ここが崩れてしまう恐れもあるので
今回は援護を務めてもらおう。

「チュニ、あとは頼むぞ」

「もちろんだぜ。
主も、あの野郎をぶっ飛ばしてこい」

チュニの言葉をきちんと
最後まで聞いてから、
俺は全力で右足を踏み込む。
ヒガンバはとっくに
消えているため、
今度はものすごい早さで
駆けることが出来た。
魔物の声とシイラ達の声を
背中で聞きながら、
俺はヒガンバを追う。
『闇の実験場』を出ると、
長い長い螺旋階段がある。
どうやらここは
円柱状の建物になっているようだ。
半径は約10m。高さは、分からない。
ただ、とてつもなく高いのは確かだ。
円の真ん中に立ち、
上を見上げれば、
天井まで遮るものは何もない。
これは、律儀に階段を
登ってやる必要はなさそうだ。
足に再び力を込め、
適当は場所に狙いを定める。
そして、飛ぶ!

「――おぅふ…」

飛べてしまった。
この感覚はクセになりそうだ。
体がグンっと浮かび、風を切り、
着地する直前に一瞬だけ
重力がなくなったかのような感覚。
床からは随分と離れたが、
まだまだ上は遠い。
もうしばらくはこの快感を
味わえると考えると
興奮を抑えきれないが、
早くヒガンバに追いつかないと
『フランケン』を見つけられてしまう。
『フランケン』がどんな形状で、
どれほど危険なのかは
実物を見たことのない俺には
知る由もないが、
あれが魔王の手に渡れば、
俺がこの世界を救うことが
出来なくなるかもしれない。
絶対に、そんなことはさせない。
ヒガンバを倒して、
『フランケン』が魔王の手に
渡るのを阻止しなければ。
そうして、俺はまた足に
力を込めて上を目指した。

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