闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

魔物の巣窟

目の前で起きた光景に
何もできずにいると、
何かに囲まれる気配がした。
魔物だ。しかし、オークではない。
もっと得体の知れない
おぞましい魔物だ。

「…ディープ・シャドウ深い闇、ですか」

俺の同じように
気配を感じたシイラが呟く。
ディープ・シャドウ…。
この魔物の名前か。
人間と同じくらいの背丈で
姿形もほぼ人間だ。
手足があり、胴体があり、頭がある。
違うのは、全身が真っ黒である事と、
手の指が鋭い刃物である事だ。

「気をつけて下さい。
こいつらはとにかく素早い上に
爪に掠りでもするだけで
それが致命傷になります」

俺達は互いに背中を合わせて
武器を構える。
俺は剣、シイラは細剣、
職人ドワーフ3人は懐から
10cmくらいの石を取り出す。

「職人さんよ、
あんたらは戦えるのか?」

俺とシイラは
立派な武器を持っているが、
その隣りにいるのが
ただの石を持っている奴なら
気にもなる。
しかし、それも杞憂だったようで、
職人ドワーフは
ニッと笑顔を見せる。

「心配せんな、勇者の旦那」

「年寄りだからって
甘く見てもらっちゃ困ろう」

「どれ、ここは一つ、
儂らが見せてやらんとな」

言い終わるが早いか、
行動するのが早いか。
3人は全く同時に石を上に投げ、
揃った口調で詠唱を始めた。

「「「誉れ高きドワーフの名で願う。
かつての栄光の元に
我らの業を今ここにあれ。
隕石流星群ロックスターダスト!」」」

頭上高くに投げられた石は、
ドワーフ達の魔法で大量に増え、
一気にディープ・シャドウに
襲いかかった。
石の流星群が降り注ぐ中、
中には石を避けたり、
爪で弾いたり応戦していたが、
数の暴力には適わず、
塵となって次々と消えていく。
ものの数秒でディープ・シャドウは
いなくなり、
やっとヒガンバを
追い詰められる、
そう思ったのも束の間。

「――この程度が、
私の全力だと思わないで下さい」

ヒガンバが水晶玉を一撫で、二撫で。
ライオの闇の実験場に、
おぞましい数の魔物が現れる。
新たに現れた魔物は、
オークが20体、ゴブリンが50匹、
ウルフが30匹、そして
ディープ・シャドウが20体。
オークの雄叫び、
ウルフの遠吠え、
ゴブリンの喚き声、
ディープ・シャドウが爪を鳴らす音。
一瞬にして魔物の巣窟となり、
さすがのドワーフ達も怯んでしまう。
しかし、だからといって
ここの魔物を片付けてからでは、
ヒガンバに逃げられてしまう。

「…お前らに、ここは任せていいか?」

実際には逃げずに
『フランケン』を探すのだろうが、
どちらにしても
足止めをくらっている暇はない。

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