闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

戦闘

俺には、シイラ達が
なぜ恐怖しているのか分からない。
この世界の常識があれば
その理由も分かるのだろうが、
今の俺にはない。
と思ったらシイラが答えてくれた。

「…魔王に仕える幹部的存在、
それが『宝石』です。
『宝石』は全部で6人いて、
一人一人が国を壊滅させるほどの
力を持っていると言われています」

なるほど。そういうことか。
つまりは、ヒガンバは
滅茶苦茶強いってことか。
まぁ、正直に言えば、
今まさにヒガンバの強さを
文字通り肌で感じている。
ヒガンバが顔を上げてから、
顔や露出している手足の表面が
ピリピリしているのだ。
おそらく、ヒガンバが魔力やらを
放出して、じわじわ俺達を
追い込んでいる。
早く動かないと、
剣を振るより前に
こちらが全滅してしまう。
今、真っ先に動けるのは俺だけだ。
それなら、俺が先陣切る他に
誰が突っ込むんだ!

「怯むな!行くぞ!」

剣を握り直し、
床を思い切り踏み込む。
あまりスピードが出ないのは、
ヒガンバの魔力のせいだろう。
それでも、このまま突っ込んで
ヒガンバが何かする前に
首を撥ねれば終いだ。

「――おいで」

ヒガンバまであと3mのところで、
ヒガンバが水晶玉に手を触れた。
すると、俺とヒガンバの間に
先日も戦ったオークが現れた。
何もないところから、だ。
なるほど。こうやって魔物を召喚して
行商人を襲わせているのか。
――止まることは出来ない。
なら、オークをさっさと倒せば、
ヒガンバを守る魔物はいなくなる。
いくら強いといっても、
召喚できる魔物の量は
限られているはずだ。

「どけぇ!」

剣を横に思い切り振って、
オークの首を狙う。
体格差があるため
首を撥ねることはできなかったが、
運よく頸動脈を捉え、
オークは悲鳴と血しぶきをあげる。
オークの返り血を浴び、
俺は不快感に苛まれたが、
今はそんなことを
気にしている余裕はない。
倒れそうになるオークを
無理矢理横に蹴飛ばし、
その先にいるはずの
ヒガンバに剣先を向ける。
しかし、そこにヒガンバの姿はない。

「勇者様!奥です!
奥の隠し通路!」

困惑しかけた俺に
ヤガラからの声が届く。
ヒガンバが消えたことで
自分を取り戻した彼らは
慌てた様子で俺に駆け寄る。
おそらく、ただ相手が
『宝石』だから怯んでいたのではなく、
ヒガンバが発する魔力によって
一時的に動けなかっただけだろう。
切り替えも早いし、勇気もある。
これは俺じゃなくて
彼らに任せた方がいいんじゃないか。
そう思わせてくれるほど、
彼らの表情は気迫に満ちている。

「全員大丈夫だな。
よし、奴を追うぞ!」

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