闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

ヒガンバ

俺が最初に違和感を覚えたのは、
ラ王の部屋に案内された時だ。
他の物はボロボロなのに、
ラ王の横に置いてあった
水晶玉だけは綺麗なままで、
大切にされていた。
一番金に替えられそうな代物だし、
他の生活必需品よりも先に
水晶玉売れよって思った。
それが先祖代々から
受け継がれてきた家宝とかなら
まだ話は通じるが、
ヤガラに聞いたところ、
魔王が復活した時に、
ラ王が御守りとして買った物だという。
そんな大して大切でない物を
どうして今も持っているのか、
ずっと気になっていた。
その中で思い出したのだ。
ラ王が俺達に言ったことを。

『お待ちしておりました』

待っていた。
なぜ、俺達が来ることを
前もって知っていたのか。
その秘密があの水晶玉なのでは?
水晶玉を通して俺達を観察し、
腕試し程度にオークを召喚した。
この説なら、
ラ王の言葉も筋が通るし、
魔物が突然現れる理由にもなる。
そして、なにより――。

「お前からは、
人間じゃない臭いがするぜ?」

チュニは俺にこっそりと
教えてくれたのだ。
奴から魔王に近い臭いがする。
おそらく、魔王の幹部かが
ラ王に憑依している、と。

「お前は、誰だ?」

ラ王を睨みつけて、
俺は声を低くして言った。
怪しいマネをすれば、
すぐにでも切りかかる覚悟だ。

「いやぁ、まさかバレるなんてね~」

ラ王は、いや、奴は、
不気味な声でフフフと笑う。
やせ細った頬に笑みを浮かべ、
男とも女とも受け取れる
中性的な声で、奴は語る。

「さすが、影の勇者だね。
私の憑依を見破るなんて」

奴は横に置いてある
青緑色の水晶玉を撫でながら、
残念、残念と繰り返す。
ここまでくると、
先ほどまで俺に
薙刀を向けていたヤガラや
シイラも察したようだ。
こいつはラ王ではない、
別の何かだと。

「どうせ皆殺しにするんだけど、
私のことを見破ったご褒美に
自己紹介してあげる」

奴は立ち上がり、
右手を胸に当てて
綺麗なお辞儀をした。

「私の名は、ヒガンバ。
偉大なる魔王様の宝石の一人、
魔物石を賜っています」

ヒガンバが顔を上げると、
そこにはラ王の顔はなかった。
中性的な声と同化して
顔立ちも中性的に見える。
その中で一つ異彩を放つのは、
左目の周りに黄色で正方形の
ペイントがされているところだ。

「宝石…ですって……?」

俺がヒガンバの顔に
気を取られていると、
すぐ横にいたシイラが
道端でばったりと
ゾンビに会ったような
恐怖と絶望に満ちた顔で
青ざめていた。
シイラだけではなく、
ヤガラやドワーフ達も同様に、
足が震えている。

「どうした。
奴が誰か知ってるのか?」

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