闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

装備は整った

ライオに到着してから
早くも三日目を迎え、
俺達はラ王の元に集まっていた。
俺達の他には、
道案内役兼ラ王の通訳のヤガラと
職人であろうドワーフが三人いる。
三人ともやせ細っているが、
彼らの目は死んでいない。
最後の希望を
俺達に託しているのが
肌越しにも伝わってくる。

「大変お待たせ致しました、勇者の方々。
皆様に合う最高の装備が
ここに整いました。
これで、ライオに蔓延する
あの忌々しい魔物共を
どうか倒して下さい。
…と仰っております」

目の前に並べられた
数多くの装備。
完全な素人である俺にも、
どれを取っても一級品だと分かる。
刃渡りのある剣は、諸刃だ。
どちら側もよく研がれており、
オークごときなら
100匹は切れそうだ。
柄の模様も見事で、
歴戦の強者に相応しい。
頑丈そうな盾も、
硬そうな見た目とは
想像もできないくらいに軽くて
女性のシイラでも扱える。
人間である俺とシイラの
防具も文句なしに
体との相性も良く、
悪魔であるチュニにも
手に嵌める用の
鉄グローブを作ってくれていた。
たった三日間で
これだけ質の高い物が作れるのだ。
このまま魔物に脅え
滅んで行くだけなんて
もったいなさ過ぎる。

「やはり、似合いますな。
…と仰っております」

シイラは全体的に
機動力のある装備で、
腕や足はほぼ生身。
シイラの大きな胸を
圧迫するような胸当てを着けて、
軽くも丈夫な盾を持ち、
獲物は全てを貫通させる細剣だ。
さすが、近衛騎士団長というべきか、
その佇まいが様になっている。
俺の装備はというと、
こちらも機動力重視の軽装で、
胸当てや腕当てを着けている他は
一本の剣を持つのみ。
剣なんて握ったこともないので、
本当はチュニのような
手に装着する用の
武器を期待していたのだが、
こればかりは仕方がない。
案外向いている可能性もあるし、
試しに使ってみるのも悪くない。

「よし、装備も整ったし、
魔物狩りを始めるとするか」

装備が整ったら、
あとは魔物を倒すだけだ。
ライオを脅かす魔物を倒して、
金をたくさん貰って、
この異世界ライフを
謳歌して過ごそうかな。
魔物とか魔王は
そのうち他の勇者が倒すだろ。
…まぁ、冗談はこれくらいにして、
本気の本当に魔物狩りをしよう。

「…覚悟しろ」

俺は装備したばかりの
剣を鞘から引き抜き、
ラ王に剣先を向けた。

「っ深慈君!?」

「貴様、何をする気だ!」

「勇者ではなかったのが!?」

シイラは驚きのあまり目を見開き、
ヤガラは薙刀を俺に向け、
職人ドワーフは身構える。
当然といば当然の反応だ。
国の主であるラ王に、
俺は武器を向けているのだから。
しかし、何も俺はラ王を殺して、
ライオのなけなしの物資を奪って
トンズラしようとか
そんな野蛮なことは
2mm程度しか考えていない。

「俺はこの国の恐怖の元凶を
絶とうとしてるだけだ。
…なあ、凄腕の魔物使いさんよ」

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