闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

チュニの魔法

砂ぼこりが立ち込め、
俺達を異様な静寂が包む。
チュニが魔法を放つ前と後とで
変わったことといえば、
巨大なクレーターが出来ただけで
他には何も変わらないはずなのに、
やけに静かに感じてしまう。
それだけ、魔法の轟音が
頭に残っているのだ。

「――フスー」

チュニは胸を張り、
鼻から息を吹いて褒めてアピール。
魔法の詠唱の中にも
それらしい言葉があったし、
チュニにとって
主人である俺に褒めてもらうのは
とても嬉しいことらしい。
それとは関係なしに、
俺としても褒めてやりたいのだが、
素直に褒められない。

「やり過ぎだ」

あくまでも、試しにやってみた程度だ。
それ一つで街を壊滅させるくらいの
大魔法なんて頼んでいない。
ホントに小規模な魔法で
目的は達成できるのだ。
たとえ悪魔でも、手加減という言葉は
知っていてくれているだろう。

「チュニ、何でも強ければ
いいという話ではないのですよ。
時には弱き力も必要なのです」

俺が厳しく言うのとは対象的に、
シイラは優しく悟らせるように
チュニを言いつけている。
胸を張っていたチュニは
ダラりと項垂れ、
心做しか小さく見える。
反省している証拠なのだろうが、
俺は危機感を覚えてしまった。
俺よりシイラの方が
チュニの主人に向いている。
そのうち、チュニが俺を捨てて、
シイラの使い魔になって、
そのまま二人で逃げ出す――。
なんてことになる可能性がある。
やだ、そうなったら俺、
一巻の終わりじゃない。
世界を救うどころの話なんて
していられなくなるわ。
ここはなんとか
チュニを元気づけて、
かつこれからも俺と頑張っていこう、
みたいな素敵な魔法みたいな言葉を…。

「一緒に練習していこうな」

「――っ!おう!」

いよっしゃぁぁぁぁぁ!
どんなもんじゃい!
見事に言いくるめてやったぜ!
伊達にずっと部屋に閉じこもって
ラノベやらゲームやら
やってた訳じゃねぇぜ!
…いや、別に誇ることじゃないな。
自分で恥ずかしくなってきた。
何はともあれ、
チュニが魔法を放っても
魔物が出てくることがない、
ということは、
人の気配や魔力を感知して
魔物が出てくるなんて仕組みの
罠である説は不立証とされた。

「いよいよ分からねぇな…」

あと考えられるとすれば、
本当に何もない所から
気まぐれでポンっと魔物が出現する、
という暴挙の説しかない。
が、いくら異世界でも、
そんなバカな話はないだろう。

「一旦戻って、
情報を整理してみては?」

俺が頭をこねくり回して
熱が出そうになっているところに、
ヤガラが話しかけてくれた。
このまま考えていても、
何も解は出そうにないので、
俺達は城の部屋に戻ることにした。
…今度は道を間違えなかったぞ。
本当だ。

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