闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

ドワーフの奇病

それは、ドワーフの『食』だ。
元々ドワーフは人間と同じように
家畜の肉や野菜、果物を食べていた。
しかし、貿易が止まり、
それらの食料が手に入らなくなると、
ある日突然、一人のドワーフが
作りかけの歯車を食べ始めたのだ。
当然、歯車は鉄製だ。
噛み砕くことも出来なければ、
消化することも出来ない。
そう、誰もが思っていたのに、
そのドワーフは鉄製の歯車だけで
生きながらえたそうだ。
彼が証明したおかげで、
ドワーフ達は家の壁でも
カラクリの部品でも
何でも食べるようになり、
挙句の果てには
ベッドの綿やガラス製品までもが
彼らの食料と化した。
部屋の物がほとんどないのも、
王が食料として
民に分け与えていたからだそうだ。

「嘘…」

シイラは口に手を当て、
おぞましい物を見たような顔で
目に涙を浮かべていた。
しかし、まだ話は終わっていない。
国中の全てが食料と化し、
立派に建っていた時計台も、
共同で造られた巨大なカラクリも、
何もかもが形を失ったある日、
謎の病気が流行り出した。
全身に錆のような物が纏わりつき、
無理に動いたらそこが割れて
腕でも足でも血切れてしまう。
医者を呼ぼうにも、
魔物が蔓延るライオに
危険を冒してまで
診に来てくれる人はおらず、
この病気は鉄を食べたからだと
自分達で判断するしかなかった。
いよいよ食料がなくなり、
犠牲者も後を絶たない。
そこで現れたのが、俺達だ。
今までもいくつかの冒険者のパーティが
魔物討伐に来てくれたらしいが、
あまりの魔物の多さに
手が出せなかったそうだ。
おそらく、俺達が最後の救世主になる。
ラ王は一縷の望みを
俺達に託したようだが、
街の中には、どうせあの数の魔物を
狩れる訳がないと、諦めている者もいる。
ここに来る際、やけに視線を感じたのは、
そういった様々な感情が
俺達を見つめていたからか。

「…こんな話聞かされて、
やっぱ無理ですは言えねぇな」

少なくとも、ラ王とヤガラは
俺達に期待している。
一人でも、希望を捨てていないのなら、
その希望を未来に繋げる義務がある。

「シイラ、チュニ」

「はい」

「おう」

三日間、何もせずに
ただ装備の完成を待つのは無駄だ。
それまでの時間で、
少しでも魔物の情報を集めて、
作戦を練らなければならない。
そう思いついたら、即行動だ。

「行くぞ」

立ち上がり、
颯爽と部屋を去ろうとする。
シイラとチュニも俺の意図を察して、
すぐに付いてくる。
この察しの良さと切り替えの早さ。
さすが、俺が見込んだことはある。

「待って下さい!」

部屋を出て、向かって右に
体を向けると、ヤガラが止めてくる。
何だと思って振り向くと、
ヤガラは言いづらそうに
顔を少し背けて言った。

「…出口は、逆です」

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