闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

略してラ王

さすがはドワーフの国、
というべきなのだろうか。
シンガルの綺麗で豪勢な王宮とは違い、
まるで核兵器の実験施設のような
ドワーフの城は、
コンクリートの床を歩く度に
コンコンと高い音が響く。
鉄に似た匂いが充満し、
視界が霞んで見える、

「我が君、冒険者の方がお見えです」

いくつもの角を曲がり、
結局今自分は何階にいるんだと
いうほど階段を昇り降りして、
やっと王の部屋に到着した。
外敵が侵入した時の
備えの為なのであろうが、
帰りも同じ道を歩くことになると
想像するだけで嫌になる。

「――れ」

鉄の扉の真ん中に
赤色の宝石が埋め込まれた
これまた重厚な扉の中から、
かすかな声が聞こえた。
おそらく、「入れ」と言ったのだろう。

「失礼します」

先にドワーフの彼が扉を開け、
どうぞ、と言って俺達を引き入れる。
俺達も一応失礼します、と言ってから
中に入っていく。
さほど広くもなく、
ゴージャスな照明もなく、
執事もいないメイドもいない部屋は、
ここが本当に王の部屋かというほど
荒れ果てて汚い空間だった。
ただ、王の横にある
水晶玉が異様な雰囲気を創る。

「どうぞ、お近くへ。
…と、仰っております」

王が何か喋ったようだったが、
声が小さ過ぎて聞こえず、
代わりに案内をしてくれた
ドワーフが教えてくれた。
彼の言葉に従い、
俺達は揃って王に近寄る。
痩せこけた頬、
白いものが混じる髪と口ひげ、
傷だらけの鎧。
どこを切り取っても、
とても一国の王とは信じ難い。
シンガルの時と同様に、
これも演目の一部と思いたいが、
これは違う。
心の闇に触れた今の俺には分かる。
これは演技などではない。
こんな寂れた生活を、
彼らはしているのだ。
そう、国の主でさえも。
この城に着くまでに幾度も見たのだ。
道の端に座り込んだり、
うづくまっていたりしている
ドワーフ達の姿を。
子どもも大人も男も女も関係ない。
十分な食事さえ出来ず、
彼ら彼女らは苦しんでいる。
それほどまでに、
この国の現状は酷い。

「お待ちしておりました。
今回は誰の紹介ですかな?
…と、仰っております」

いちいち間に人が入るのは
時間もかかるし面倒だ。
ここは出来るだけ
こちらから発言したほうが
いい気がする。

「ダイの紹介だ。
ライオの周辺に魔物が現れ、
貿易が出来ないから
魔物を討伐してほしいと言われた」

「そうか。…と、仰っております」

ライオの王、略してラ王は、
袖から細い腕を出し、
あごに持っていく。
骨の分の太さしかないその腕を見て、
ますます今のライオの状況が
相当マズいものであると自覚する。

「あなた方には、
ライオ周辺に蔓延はびこる魔物、
もとい魔物の住処を突き止めて
根絶やしにしてほしい。
…と、仰っております」

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