闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

オーク討伐

オークとの距離が
もう10mまで迫った時、
三匹のオークが
同時に突っ込んできた。
粘り気のある唾が散り、
汚い雄叫びが頭の中まで響く。

「失せろ!」

シイラを助けた時と同様に、
馬車を蹴り、
一瞬でオークの目前に迫る。
真ん中にいたオークのアゴに
渾身の右パンチを打つ。
俺の手に、オークの感触が伝わる。
脂の多いぶにぶにした肉感、
生温い温度、全てが不快だった。
それでも、拳を振り抜いた
俺の根性を褒めてもらいたい。
オークは俺の速さに対応出来ずに
まともに食らったため、
勢いよく吹っ飛び、
ピクリとも動かなくなる。

「次は――っ!」

地面に着地した俺は、
次のオークを狙おうとしたが、
その前にオークの巨大な拳が
俺の体を殴り飛ばす。
5mほど空を舞い、
奇跡的に足から着地できた。
咄嗟に腕でガードしたはいいが、
左腕はもう使えそうにない。
肘を中心に青くなっており、
動かそうとする度に激痛が走る。

「きゃぁぁぁ!」

シイラの悲鳴、オークの咆哮、
馬のいななきが同時に響く。
俺が止まっていても、
オークが待つことはない。
このままでは、シイラが危ない。
チュニに手を出すなと言った以上、
俺がどうにかするしかない。

「深慈君!助けて!」

考えている時間はない。
そんなことをする前に
行動を取らなければ。
しかし、どうする…?
二匹のオークが拳を構え、
シイラに狙いを定める。
シイラが死ぬ。
俺の目の前で殺される。
俺が守れなかったから。
俺のせいでシイラが死ぬ。
――させるものか。

「――っえ?」

シイラは恐怖で目を閉じた。
が、いつまで経っても
何も襲ってこない。
シイラが恐る恐る目を開けると、
そこには目を見開く光景があった。
オークは拳を確かに振り下ろした。
しかし、その拳がシイラを捉える前に、
オークは黒いトゲのような物で
全身を貫かれ、
動きを完全に封じられていた。
シイラは何が起きたのか分からずにいた。
が、助かったことに変わりはないので、
とりあえず急いで馬車を降りる。
そこで初めて気がついた。
土と僅かにしか草が
生えていなかったただの地面が、
一部ではあるが黒く染まっている。
まるで黒いレッドカーペットを
敷いているようなそれは、
片方はオーク達の足元に伸びており、
もう片方はというと、

「…深慈君?」

地面に両膝と左腕を着いた俺がいた。

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