闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

邪悪な勇者

「あ、その…武器はですね…」

武器についての話になると
途端に顔を伏せたシイラ。
これは、何か隠している。
指をモジモジと交差させ、
顔を伏せていたが、
やがて顔を上げると、
その綺麗な顔立ちが
耳まで紅く染まっていた。

「笑わないで下さいね…?」

上目遣いで言うシイラに
男心をくすぐられるも、
男は冷静を装って頷く。

「なくしちゃいました(๑>ᴗ<๑)」

一緒、部屋の時が止まった。
そう錯覚させるほどの
静寂をつくった本人は、
両手で顔を隠し、
この空気など気にもしていないようだ。
チュニが呆れたように
ため息を吐いているので、
なくしたというのは本当の事なのだろう。
が、近衛兵団長ともあろう者が
武器をなくすなど、
本当にありえるのだろうか。
先ほどまで話題に出ていた、
謎の男を操っていた魔物使いの
仕業ではないのか。
あれだけ腕っぷしの強そうな男さえ
我が物にしてしまうのだ。
すばしっこくて器用な
人間を操るくらい簡単なはず。
しかし、シイラのこの様子を見ると、
そんな気もなくなってきた。
思ってしまったが、
もしかしたらシイラは
とんでもないドジっ子なのかもしれない。
俺はこれ以上深堀りすると
何か嫌な物を発掘しそうだと思ったので、
シイラから勝手に話し出さないように
最後の質問に移ることにした。

「はぁ…。武器の話はもういい、次だ。
いや、最後の質問だな。
お前、なぜ俺が勇者だと知って、
逃げ出そうとしたんだ」

俺の質問を聞いて、
シイラは小刻みに動いていた体を
ピタッと止めた。
手を下ろすと、そこに紅い顔はなく、
真剣さに満ちたシイラがいた。

「貴方様は、影の勇者なのですよね?」

影の守護を受けた影の勇者。
それが、俺のこの世界での2つ名だ。

「それがどうした」

俺がキツめに問うと、
シイラは部屋に外から
僅かな光を取り入れる小さな窓に
視線の先を移し、
遠い遠い太陽に目を細める。

「私も王族の娘です。
この世界にやってくる
異世界からの勇者の話は
何度も聞いています。
それぞれの勇者が、
それぞれの守護を受けることも、
勇者こそがこの世界を救うことも。
ですが良いことと同時に、
悪いことも聞いています。
それが、右手に黒い護神石を
宿した影の勇者は、
他の勇者と対立して
この世界の全てを影で支配する、
という話です。
影の勇者だけは他の勇者と違い、
世界を救うのではなく、
支配するつもりなのだと。
この世界の、いえ、少なくとも
私の知る影の勇者とは、
そのような存在なのです」

だから、俺が影の勇者と知った途端、
逃げようとしたのか。
シイラの話を聞く限りだと、
勇者の中でも影の勇者だけは
邪悪な存在らしい。
それなら、逃げ出そうとした理由として
納得がいく。
シイラは、失礼なことをして
申し訳ないと俺に頭を下げてきた。

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