闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

魔物使い

俺はチュニに目をやると、
シイラが嘘を言っていたかと
アイコンタクトをした。
チュニは残念そうに首を振り、
シイラを顎で指す。
嘘はついていないから
とっとと次の話を聞け、
というチュニの心の声がした。
どうやら、この数日の間で
俺とチュニは心で会話が
出来るような関係になったらしい。

「大体の話は掴めたが、
まだ完全に理解出来た訳じゃない。
ここからは、俺達の質問に
一つずつ答えてもらう」

シイラは、もう一度深く呼吸すると、
どうぞ、と先を促した。

「お前を襲っていたあの男は誰だ」

あの男、聞いてシイラは
少し動揺したようだが、
チュニがいる以上
嘘はつけないと思ったのか、
ゆっくり吐き出すように
首を振りながら答えた。

「あの男が何者なのかは、
私にも分かりません。
しかし、あれは人間ではない
別の生き物の空気がしました」

人間ではない生き物、
とそう聞けば、
俺がすぐに思い浮かぶのは
幽霊やもののけの類いだ。
しかし、この世界に
そんな説明不能な存在がいると
耳にしたことはないから、
考えられるのは、魔物だけだ。

「あぁ、それなら吾も同意だ。
あいつからは魔物…いや違うな。
魔物を使役する魔物使いの
独特の雰囲気がした」

魔物がいるなら、
魔物使いがいたところで
不思議なことはない。
しかし、そうなると
一つ疑問が浮上してくる。

「待ってくれチュニ。
そうなると、あの男が
魔物だったってことにならないか?」

魔物使いということは、
使役出来るのは
当然魔物に限定される。
男を殴った感触は
確かに人間の体そのものだったし、
男が魔物だったという説は
どうにも筋が通らない。

「主の言う通り、
魔物使いは魔物を操る者の名称だ。
でも、男自体はただの人間で
間違いない。まぁ、つまりだな、
よく分からねぇってことだ」

チュニが分からないのなら、
いくら俺が考えようと
答えなど出ないだろう。
一応シイラにも
何か心当たりはないか聞いたが、
シイラは首を横に振った。

「じゃあ次だ。
お前は仮にも近衛兵団長に
任命されるほど、
ちっちゃい頃から
鍛えていたんだよな?
相手が何であれ、
なぜ、戦うこともなく
ただ悲鳴を上げるだけだったんだ?」

相手が複数いるならともかく、
国を守る兵士達の
団長を務めている人間が、
一人の人間相手に
何もせずやられるだけというのは
納得がいかない。
服も膝のところが少し汚れているだけで、
戦った形跡もない。
そこで、俺はふと気づいた。

「それは、その…」

「待て、今気づいたんだが、
お前、なぜ武器を持っていない?」

言いかけたシイラを遮って、
俺はシイラに問うた。
シイラは、武器を持っていない。
腰や背中に掛けている訳でもなく、
箱を取り上げた以外には
他に何も持っていないのだ。
仲間を殺した後で、
自分もボロボロになって
王の元に帰ると言っていたが、
武器まで捨てる必要はない。
仮に捨てようと思っても、
自分の身の安全が
確保出来た時に捨てるべきだ。

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