闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

過去

場所が変わって、
ここは俺が泊まっている宿屋。
6畳ほどの部屋には、
シングルベッドと机と椅子、
申し訳程度のクローゼットしかない。
木造建築で、照明も心許ないが、
俺とチュニが寝泊まりするには
これで十分であるし、
宿代も他の所に比べて
格段に安いので、
しばらくはここに泊まりながら
仲間を探そうとしていた。

「悪魔さんの言う通り、
私はタアラ共和国所属の近衛兵団、
『ユーカリ』の団長をしています」

俺は椅子に座り、
シイラをベッドに座らせると、
シイラの方から話を始めてくれた。

「王の娘として生まれた私は、
貴族であるが故に、
幼い頃から剣術や座学を
徹底的に教えられました。
女の子でも関係なく、
毎日重たい鉄の剣を振らされ、
他国の言語を完璧に覚えさせられ、
泣きたくなる日々を過ごしていました。
それから、20歳になった次の日に、
私は女性で初めて、
『ユーカリ』の団長に任命されました。
最初は、嬉しかったのです。
やっと、自分がしてきた事が報われて、
努力の力で団長になったんだって。
でも、私が団長になったのは
単なる穴埋めでした。
前まで団長を務めていた
カジキという男が、
魔物討伐の任務中で戦死したのですが、
見込みのある兵士は他におらず、
とりあえずの所はっていう流れで
私に話が回ってきたと、
副団長と父が話しているのを
偶然にも耳にしたのです。
しかし、だからといって
私には辞める権利もなければ、
黙って父の命令に従うだけで、
どうすることも出来なかった。
そんな時、父が私に、
先ほどの箱を
ハンダ連邦国に届けるという、
『大事な任務』を任せたのです。
私はチャンスだと男いました。
もし、この任務が失敗すれば、
私は団長を辞めさせられるはず。
だから、私は付いていた団員達に
毒を盛って殺害し、
私自身も箱をどこかに捨て、
服を汚してから、父の元に帰り、
団長を辞めようとしていました」

シイラは、時に拳を握り、
時に涙を瞳に浮かべたりしながら、
そこまで一気に語ると、
心を落ち着かせるように
2度深呼吸をする。
シイラの置かれている状況は理解した。
護衛がいないことも納得したし、
シイラがこれから何をする気なのか、
今の話で見えた。
しかし、分からないことはまだある。
まず、シイラを襲っていた男。
あいつは一体何者で、
箱を奪ってどうしようとしたのか。
そして、シイラはなぜ、
俺が勇者と知って、
俺から逃げようとしたのか。
やっと落ち着いたシイラには酷だが、
全て聞いて納得するまで、
逃がすつもりはない。

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