闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

シイラの話

「礼はいい。
その前に、あなたは何者で、
この男が誰で、その箱が何なのか、
聞かせてもらいたい」

男を殴り伏せた以上、
俺に事情を聞く権利は十分にあるはず。
そう思い、俺は聞いてみたのだが、
シイラと名乗る女性は、
簡単に話してくれた。
まず、シイラはこのタアラの
国王の娘で、
箱にはタアラの国王から
隣りの国のハンダ連邦国に贈る
大切な物が入っている。
具体的にそれが何かは
シイラも知らないが、
この男がどこからか嗅ぎつけて
奪おうとしてきた。
と、シイラの話をまとめるとこうなる。

「主、ちょっといいか」

「なんだ?」

シイラの話を聞き終えると、
チュニが俺の肩で
ちょいちょいと手招きする。
シイラから少し離れて
チュニと向き直ると、
難しそうな顔をしながら
首を左右に捻っていた。

「どうしたんだ。
悪魔の勘が疼くのか?」

仕方なく俺から話を振ると、
チュニは呻きながらも
言葉に表そうとしてくれる。

「なんていうかなぁ。
あのマグロって人、
嘘は言ってないんだが、
どーにも、裏がありそうで、
なさそうな感じなんだよなぁ」

女性の名前はマグロじゃなくて、
シイラだな。
と、一応チュニに訂正しつつ、
俺は考え込む。
チュニの言葉を鵜呑みするなら、
シイラは嘘は言ってないが、
俺達に話してない裏がある。
しかし、確証もないし、
下手に詮索したりすれば、
国の衛兵とかが
俺達を消そうとするだろう。
右手を顎に当て、
俺はチュニと同じように
う~んと唸る。
すると、そんな俺の姿を見たシイラが、
俺のあれに気づいた。

「ん?へっ?
あ、あの!もしかしてですけど…」

慌てた様子で駆けてきたシイラに、
俺は頭に(?)マークを浮かべて
先を促すと、シイラは額に汗を滲ませ、
声を震わせながら聞いてきた。

「貴方様って、その、
勇者の方ですか…?」

シイラは、俺の右手にはめられた
黒い宝石を見ながら言った。
この宝石は勇者としての証だ。
国王の娘という立場なら、
そのことを知っていても
なんら不思議ではない。

「あぁそうだ。俺は影の勇者だ」

俺がそう名乗ると、
シイラの顔は蒼白になっていき、
頬が引き攣り出す。
オロオロと落ち着きがなく、
見えない誰かと
相談でもしているようだった。
そして少しすると、
シイラは箱をギュッと抱え直し、
他人行儀のように笑った。

「あ、そうなんですかっ。
そ、それでは私はこれで。
助けて頂いて、ありがとうございました」

言葉の繋がりが滅茶苦茶だが、
そんなことを気にする事なく、
ペコりとお辞儀をすると、
シイラは足早に立ち去ろうとする。
が、俺の横をそそくさと通り過ぎる
シイラの前に、
チュニが立ち塞がった。
立ち塞がったといっても、
シイラの顔の前で
腕を組んで浮いているだけだ。

「逃がさないよ。
…タアラの近衛兵団長さん」

「っ!?」

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