闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝

命名チュニ

人の些細な力では、
この鉄格子を破壊するのは不可能だ。
しかし、闇の力を使うには、
俺の体へのリスクが大き過ぎる。
先ほどは体そのものが
闇に飲まれそうになったし、
それを自分の意思で操るなんて
今の俺には到底出来ない。
と、俺はそう確信していた。
そこで、勇者の持つ卵から生まれた
神の血を引く使い魔の出番って訳だ。

「この鉄の棒を壊せばいいのか?」

「そうだが…」

何でもなさそうに
軽々しく彼が口にしたので、
思わず不安になってしまう。
いくら悪魔といえども、
つい数分前に卵から
孵化したばかりの子どもだ。
自身の羽で飛ばず、
今の俺の肩に乗っている彼に、
この頑丈な鉄格子を
破壊するなど出来るのだろうか。

「やれるのか?」

言うと、彼は歯を見せて笑い、
勢いよく右手を突き出した。

「神の血が流れる悪魔の吾の名で願う。
吾を阻む鋼鉄の柱をほふり、
吾と主の偉大なる道を切り開け。
破壊魔ゴットブレイク!」

声高に彼が叫ぶと、
彼の手から出た忌々しい紫の光が
鉄格子に纏わりつき、
ウネウネと波打つと、
音の無く粉々に砕け散った。

「…すげぇ」

目の前で起こったことに、
俺はそのままの感想が口から出た。
全部で30本はありそうな
血の臭いがしていた鉄格子は、
1本残らず砕け散った。
彼を見ると、
彼は俺の肩で胸を張り、
鼻からフスーと息を出す。
チラチラと俺に目をやる彼は、
俺と目が合う度に
胸を張ってみせる。
どうやら褒めてほしいようだ。

「まぁ、なんだ。
ここから出られればいいんだから、
全部壊す必要はなかったが、
一応、ありがとうと言っておこう」

「素直に感謝しろよ」

俺の言い方に
即座にツッコミを入れ、
やれやれと彼は首を振る。
ここを出られるということで、
早速俺は歩き出すのだが、
すぐにその足を止める。

「お前の名前、決めた」

今の彼の一連の動作の中で、
俺は確かに閃いた。
彼の幼さが残る性格に合い、
いかにもそれっぽい単語を
俺は元の世界から知っていた。

「今度こそ吾に相応しい
完璧な名前をつけてくれよ?」

期待半分、嬉しさ半分くらいで
頬が緩むのを必死で
抑えようとするその顔は、
何とも可愛らしく
やはりこの名前は似合うと
俺は改めてそう思った。
唾を飲み込み、
ゴクリとお互いが喉を鳴らす。
そして、俺は静かに告げる。

「…チュニだ」

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