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闇を抱えた勇者は世界を救う為に全てを飲み殺す~完結済み~

青篝(夢八)

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卵が弟とは、
どういうことなのだろうか。
まさか、神という存在は
卵で生まれてくるというのか。

「凍らせて、その上床に転がすなんて、
お前は本当に人間か?
悪魔の間違いじゃねぇのか?」

ミシリディアは、
大事そうに卵を胸に抱くと、
ブツブツと何か言い始めた。
俺の知る言語ではない。
おそらくは神が話すような
神聖な言語なのだろう。

「俺は、これからどうすればいいんだ…」

気づけば俺も、
独り言を口走っていた。
しっかり口も動くし、
体の方はもう大丈夫そうだ。
問題は、これからのこと。
ドラゴンロック、もとい国の王に
邪魔者扱いされ、
仲間のはずの雪乃に裏切られ、
多分だが、彼らの間で、
俺は死んだことになっているだろう。
なら、俺はこの国の為に
戦う理由なんてない。
かといって元の世界に帰る方法もないし、
このままここに居る訳にもいかない。
さて、どうしたものか…。

「決まってんだろ」

俺が深いため息を吐くと、
頭上から声が降り注ぐ。
卵を抱いたミシリディアが
澄ました顔でフッと笑った。

「こいつと一緒に、世界を救え」

ミシリディアの差し出した手には、
黒地に紫のドット柄の卵がある。
それに、小さなヒビが入ると、
だんだんとヒビが広がり、
勢いよく殻が弾き飛んだ。
薄紫色の光と共に
中から飛び出してきたのは、
漆黒の翼と2本の牙を生やした
体長20cm程の悪魔だった。
悪魔は大きなあくびをすると、
ミシリディアの手から離れて
俺の左肩に乗ってきた。

「影の勇者、いや、千夜深慈。
この腐り切った世界をお前が救え。
理由なんて考えるな。
お前が救える命があるなら、
お前の手で救ってやれ」

先ほどまでは見せなかった
真剣なミシリディアの眼差しは、
俺の心に見事に突き刺さった。
諦めるにはまだ早い。
元の世界では何も出来なかった。
だから、せめてこの世界でだけは、
誰かの何かの役に立ちたい。

「俺に、出来るのかな…」

それでも、不安は消えない。
希望を持ったところで、
力が無ければ何も出来ないのだ。

「出来る。守護を与える神として、
お前の活躍は俺様が約束する。
それに、お前は一度、俺様を助けた。
この世界に来る前、
道で行き倒れていた俺様に、
お前はパンをくれただろう?」

そう言われて俺は思い出す。
コンビニから図書館に行く途中で、
犬なのか鳥なのかよく分からない
妙な生き物に俺はパンをあげた。
それがミシリディアだったらしい。
しかし、俺の感覚では、
俺は可哀想な生き物に
パンをあげただけ。
それだけで、何が出来るというのか。
その俺の不安をかき消すように、
ミシリディアは力強く
俺の背中を押してくれる。
あと一歩、あと一歩だけ
前に進めたなら、
俺はやっていける気がする。
しかし、座ったままの俺の足は、
びくともしない。

「だから、立て」

ミシリディアは、
優しい顔つきで、手を差し出す。
さすが神というところなのか、
それとも彼がミシリディアだからか、
俺の欲していることを
平気でやってのける。
そのおかげで、
俺は決心がついてしまった。

「今の俺に何が出来るのかなんて、
さっぱり分からない。
だが…やってやろうじゃねぇか」

ミシリディアの手を掴むと、
力強く、勢いよく、そして優しく、
俺を前へ引っ張り上げてくれた。
全てが、ミシリディアのおかげだ。
ミシリディアのおかげで、
俺は前を向くことが出来た。
だから俺は、ミシリディアの為に、
この世界を救ってみせる。
俺の異世界英雄譚を、
どん底から始めてやる。

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